[特集]デジタル技術が役立った!   ITを使った活動事例

冷蔵庫のマグネットに着想!
井戸に貼ったQRコードで住民が不具合をカンタン報告

中尾祐成さん
中尾祐成さん
ルワンダ/コミュニティ開発/2021年度1次隊・長崎県出身

大学4回生の時に、熊本地震の物資支援ボランティアに参加したのを機に海外ボランティアにも興味を持つ。卒業後はガス会社に就職し、3年間の勤務を経て協力隊に参加。2023年7月に帰国した。




井戸の約3割が
壊れっぱなしの任地

実際にQRコードを読みとれるかどうか、現地の水委員会の人たちと確認

実際にQRコードを読みとれるかどうか、現地の水委員会の人たちと確認

   井戸の故障やトラブルが起こったら、スマートフォンでQRコードを読みとるだけで、郡庁の担当部署に情報が伝わる――。ルワンダの東部県に位置するキレヘ郡で、そんな画期的な仕組みをつくったのは、コミュニティ開発隊員の中尾祐成さん。要請内容は、水の防衛隊の活動として、郡庁の職員たちと共に井戸の管理をサポートすることだった。

「最初にカウンターパート(以下、CP)に、管轄地域にある井戸の数と、今稼働している井戸はどれぐらいあるかを聞いたところ、『わからない』と言われて衝撃を受けました」

   中尾さんは郡内の村々に点在する井戸をすべて回って状態を確認し、さらに周辺住民の代表として井戸の点検などの日常的な管理を担う村の水委員会の人にも話を聞いた。そこから見えてきたのは、井戸が壊れてもどうしていいかわからず、壊れたら壊れっぱなしという問題。中尾さんが確認しただけでも、全体で30基ある井戸の約3割が壊れていた。

「本来は月に1、2回、郡庁の職員がそれぞれの井戸の水委員会の人のもとを巡回し、壊れていたら首都の修理業者に修理を依頼するという手順を踏むのですが、職員たちも他の業務に忙しくて、なかなかそこまで手が回らないようでした」

   そこで中尾さんは、日本で働いていた時の経験に着想を得た。「ガス会社勤務時代、いろいろな家に定期点検で回っていました。その際に『故障などがあればこの電話番号までどうぞ』とマグネットシートやチラシを渡すと冷蔵庫などに貼る家庭が多かったんです。ルワンダでも井戸が壊れたらすぐに連絡ができるよう、何か設置できないかと思いつきました」

   まずは「壊れたら郡庁まで電話をください」という立て看板を置いた中尾さん。しかし、電話がかかってくることは一度もなかった。

ITへの関心に着目
QRコードで故障情報を収集

   どうしたものかと思いつつ、ルワンダという国の事情をよく観察すると、ITに興味を持つ人が多く、技術も普及していることに気づいた。

QRコードは、簡単にはがされないように、金属製のプレートで囲い、鋲でしっかりと設置

QRコードは、簡単にはがされないように、金属製のプレートで囲い、鋲でしっかりと設置

「学校でも盛んにIT教育が行われていますし、首都のカフェではスマホでQRコードを読みとって注文するのが一般的。そこで井戸にもQRコードを貼り、そこから読み込んだ情報を郡庁に送るという一連の流れができたらいいなと思ったんです」

   郡のCPに相談して、セクターと呼ばれる下位の行政区の担当者、水委員会、村長などへつないでもらい、現場の人たちに許可を得た上で、QRコードの導入に取りかかった。

「スマホのカメラでコードを読みとると、井戸の状態についての質問フォームに飛びます。『異常がない』『完全に動かない』『部品が壊れている』『違和感がある』の4つの選択肢があり、次に故障に気づいた日付と詳細を記入する欄があり、写真も3枚添付できるようになっています。入力された情報はGoogleフォーム経由で郡庁職員へのメールが自動送信され、さらにエクセルファイルのような形で、いつどこの井戸が壊れたかという情報が時系列で反映される仕組みです」

   さっそく管轄するセクターの7基でパイロット的に設置したが、すぐにはうまくいかなかった。

「QRコードをステッカーやラミネートフィルムの形で貼りつけたところ、はがされたり、見えないようにされたりといったいたずらに遭ったんです。そこでQRコードの素材を金属製やプラスチック製のものに変えてしっかりと固定し、簡単にはがされないようにしました」

入力が面倒にならないよう
質問フォームはとにかく簡単に

水委員会の人たちにQRコードの仕組みについて説明する

水委員会の人たちにQRコードの仕組みについて説明する

   ようやくしっかり設置できてからは、さっそく4件も連絡が入った。

「完全に壊れた、継ぎ目が外れた、井戸のアーム部分がすり減った、細くなったといった情報で、すぐに修理業者に依頼し、以前より格段にスピーディに対応できました。緊急の故障連絡だけでなく、郡庁職員が毎月行っていた巡回点検も、水委員会や村長に見てもらってQRコードから知らせてもらうようにしました」

   立て看板がダメで、QRコードが効果を上げたのはなぜか。

「電話口で状況を説明するのは面倒ですが、今回導入したQRコードの仕組みならば質問フォームを選択するだけで、簡単なんでしょうね。定期点検も含め、報告が面倒にならないためにも簡単な仕組みにしたのがよかったのかなと思います」

   中尾さんの帰国後も、QRコードは活用されているという。

「CPたちだけで運用できるように教えていたので、今は私がいなくても回せると思います。同じ任地の今後はキレヘ郡全体、ひいては他の郡に展開していけばいいですね」



中尾さんのプログラミングの学び方

QRコードを読みとり、Googleフォームを経由し、郡庁職員に届く。そんなプログラミングに必要な知識は基本程度しか知らず、YouTube動画でいろいろ学んだという中尾さん。「参考になる動画にたどり着くには、何をしたいか目的を明確にして検索すること。私の場合、『自動でメール送信する仕組みをつくりたい』という目的に沿ったキーワードで検索して動画を探しました。例えば『ホームページをつくりたい』なら、HTML、CSS、JavaScript、初心者、入門といったワードで検索していくといいと思います」

Text=池田純子   写真提供=中尾祐成さん

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