この職種の先輩隊員に注目!   ~現場で見つけた仕事図鑑

理学療法士

  • 分類:保健・医療
  • 派遣中:28人(累計:663人)
  • 類似職種:障害児・者支援、作業療法士

※人数は2023年9月末現在

CASE1

長田真弥さん

一般診療を行いながら
地域や学生にも技術移転

長田真弥さん
パラグアイ/2017年度1次隊・長野県出身

PROFILE
高校時代、野球で肩や足を故障した際に理学療法士の治療を受け同職を志す。協力隊OVだった大学の恩師の影響で協力隊を知る。資格取得後、急性期医療の総合病院に4年、老人保健施設の訪問リハビリに1年従事後、退職し協力隊に参加。帰国後は以前の勤務先に復職し、大学院で公衆衛生学も学ぶ。国際リハビリテーション研究会でも活動。

配属先:ミンガグアス市役所

要請内容:パラグアイ東部のミンガグアス市内にある市役所が運営管理するリハビリ施設にてスタッフの理学療法士と共に業務を行いながら、リハビリ技術の向上支援や、治療計画の作成・患者のデータ管理方法についてアドバイスを行う。

CASE2

柳 沙希(旧姓 柴田)さん

地域の障害児・者家庭が
抱える問題に取り組む

柳 沙希(旧姓 柴田)さん
ガーナ/2015年度2次隊・神奈川県出身

PROFILE
奨学金を受けていた高校時代に厳しい境遇にある海外の若者と交流したことを機に国際協力を志す。専門学校で理学療法士の資格を取得後、病院に4年半勤務し、回復期と神経難病のリハビリテーションに従事。退職して協力隊に参加。帰任後もガーナでボランティアなどを行い、現在、南アフリカ共和国で子育て中。

配属先:義肢装具訓練センター

要請内容:身体障害者の義肢装具製作と訓練を行うカソリック系のセンターで、先天性障害を持つ乳幼児から切断手術後の成人まで障害者に理学療法を実施、自宅などで行うリハビリ方法の指導、義肢装具の装着具合のチェックなどを行う。

「理学療法士」職種の隊員は病院や障害児・者施設、特別支援学校などに配属されて、患者への理学療法、地域社会に根ざしたリハビリテーション(CBR)活動の実践・普及、同僚への技術指導などを行う。理学療法士の国家資格は必須で、3年以上の臨床経験をもって活動する隊員が多い。

CASE1

業務を通して同僚の信頼を得て
地域や大学にも活動を広げる

   ブラジルとの国境に近いパラグアイのミンガグアス市役所に派遣された長田真弥さん。活動先は市が運営管理するリハビリ提供施設で、同僚と共に障害のある人や高齢者など地域の人に低額でリハビリを提供しながら、同僚に対して治療計画の作成や患者のデータ管理方法などをアドバイスした。

   長田さんが治療に当たりながら感じたのは、一般の人も医療関係者も機能障害を改善するリハビリへの理解が十分でないため、正しい治療を受けていないことがあること。また、健康や食生活に関する知識が少ないこと、バイク事故などによる外傷が多いもののけがの応急処置に対する基礎知識が少ないことにも気づいた。

   そこで「持てる知識で、地域に基本的な治療や健康について啓発したい」と、施設の待合室へのポスター掲示やホストファミリーをはじめとする口コミ経由で希望に応じた内容で講習会を行うという広報を実施した。患者や家族を対象に運動や介護方法の講習会、看護師や消防士を対象に勉強会を開催した。内容を説明し実践してみせる教え方はわかりやすく好評だった。

   一方、患者を個別に隔てていた木の板の壁を取り払い、同僚と互いの治療の様子を観察しながら業務を行ううちに信頼を得た長田さん。大学の教員も務める同僚から授業に誘われ、学生の指導にも当たるようになった。「教えたことを実践する学生や、熱心に指導に取り組むようになった同僚の姿を見て、これが技術を伝えるということなんだと感じました」。

長田真弥さん

最大のピンチ(任期序盤)

「クリニックを回すのにあなたは呼ばれたのよ。私が出産で休む間、しっかり稼いでね」。配属されて早々、たった一人の同僚からそう言われ、「そうじゃない」と言い争いになりました。市役所のカウンターパートからきちんと配属理由が伝わっていなかったようで、そこで改めて自分が来た目的と考えている活動内容を話すと、理解し協力してもらえるように。それでも、しばらくはマンパワーとしての日々が続き「ここに何を残せるのだろう」と悩む時期が数カ月続きました。


最高のやりがい(任期終盤)

地域でも治療を必要としている人が多いため、訪問リハビリを行う長田さん

地域でも治療を必要としている人が多いため、訪問リハビリを行う長田さん

大学での指導で、学生が私のやり方をまねて、患者さんたちに目的や意味をきちんと説明してリハビリを提供する姿を見られたことです。それまでは、教員が「この運動をこの回数でさせて」と指導し、学生はそれをそのまま患者さんにさせていたのですが、運動の意図や姿勢に注意を払うことなど大切なポイントを伝え、動画を撮って違いや変化を確認してもらい、記録をつける重要性も伝えました。その成果を実感し、教育に携わる醍醐味もわかりました。






CASE2

巡回リハの結果をフィードバックし
専門クリニックやデイサービス開設へ

   柳 沙希さんの配属先は、リハビリと義肢装具製作を行うカソリック系のNGOで、アメリカ人の施設長の下で90人のスタッフが働き、さまざまな国のNGOやプログラムから支援や寄付を受け運営されていた。対象は乳児から成人まで、脳卒中、骨折、切断、脳性まひ、水頭症、先天性内反足のほか、日本では少ないポリオなどの疾患のある人で、ガーナ国内のみならず西アフリカ中から患者が集まっていた。

   柳さんはリハビリ部門で診療を行ううちに「お金がなければ安価とはいえ義肢装具は買えないし、施設に来ることもできない。さまざまな事情でここに来られない人が多くいるのでは」という疑問を抱えるようになった。

   配属先に地域での調査を兼ねた巡回リハビリを提案すると、同僚たちは「仕事を増やしたくない」と協力的ではなかったが、施設長が理解を示し地域のクリニックの看護師を紹介してくれて、週1回、二人で訪ねて回った。

「すると、配属先から徒歩数分圏内に多数見つかりました。収入がないため障害児・者がいても治療を受けさせられない家族、義肢装具がないため家で横たわるしかない人、それによってさらに二次的な障害を患う人、手術が必要な人など、リハビリを行う以前の人もいました」

   柳さんたちはそうした人たちを医療機関や貧困家庭を支援するNGOなどにつなぎ、栄養状態が悪化している障害児を配属先で預かったりした。

「最大の問題は、障害児を抱えた親が疲弊して子どものケアを諦めてしまうことでした。子どもは身体を動かせず、学校にも行けず、場合によっては存在を隠されていることもありました」

   危機感を持ち巡回診療の様子を配属先に報告し続けた柳さん。その声は配属先を動かした。3カ月後には脳性まひ専門クリニックが開始され、障害児のデイケアサービスも任期終了直前に開設されたほか、柳さんの帰任後も巡回リハビリを継続することが決定した。

柳 沙希(旧姓 柴田)さん

最大のピンチ(任期序盤)

人々が医療を呪術や薬草療法、さらには宗教と同列で扱っていることでした。そして、まひも含めて「すべての病気は治る」と信じている人が多いのです。医療従事者の威圧的な態度と説明不足、人々の科学知識の理解が十分でないことと相まって医療に対する不信があり、呪術や宗教に頼ったほうが救われるという価値観がありました。巡回診療では、それらを否定せず、「魔法のように治ったりしないけど、ここまで一緒に頑張ってみない?」と足しげく通いました。


最高のやりがい(任期終盤)

コミュニティで訪問リハビリを行う柳さん。「悩みや不安を打ち明けてもらえるよう頻繁に通いました」

コミュニティで訪問リハビリを行う柳さん。「悩みや不安を打ち明けてもらえるよう頻繁に通いました」

巡回診療で見つけた障害のある子どもが学校に行けるようになったり、手術を受けられたり、車椅子に乗れるようになったり、自分の関わった患者さんやその家族が前よりも楽しそうに生活していることを感じた時です。ガーナでは医療機関や福祉サービスの連携がなされていないため、障害児を抱えた親はあちこちを訪ねても障害がよくならないと疲れて果てていたので、私たちが寄り添うことで少しでも希望を持てるようになればと思って活動していました。



Text=工藤美和 写真提供=長田真弥さん、柳 沙希さん

知られざるストーリー