帰国後、内定までの就職活動の方法を聞きました。
就職先:自動車部品の製造会社
事業概要: 日本企業とアメリカ企業の出資による合弁会社。自動車用部品の製造・品質管理・技術サービスのノウハウを持ち、高品質な自動車用部品を、メキシコ国内の日系や米国の自動車メーカー向けに製造・販売している。
会社員時代に旅行で訪れたカンボジアで短期間、個人主催のボランティアに参加したことで、海外で腰を据えてボランティア活動をしたい気持ちが芽生えたという菅 由布子さん。そこで応募したのがJICA海外協力隊だった。
環境教育隊員として赴任したペルーでの主な活動は、学校や地域を回り、子ども・市民向けに環境教育を行うこと。熱心なカウンターパートと共に受け入れ先を開拓していった。一方でオフィスにこもりがちで仕事に身が入らない同僚もいたという。
「同僚たちに自主的に動いてもらえるように『こうしたいけれどどう思う?』と問いかけて関心を持ってもらい、少しずつ引き込んでいきました」
任期中、JICAペルー事務所を通じてメキシコの人材会社で働くOVによるオンラインセミナーに参加する機会があり、メキシコには多くの日系企業が進出しており日本での実務経験を持つ人材を求めていることを知った。
「ちょうどスペイン語も理解できるようになっていたので、メキシコで働くことを考えるようになりました」
任期終盤、メキシコの人材会社に登録し、民間企業への就職を決めた。協力隊の任期終了後にメキシコで営業職として働き始めたが、一社目は社風が合わないこともあって退職した。現在は日米合同出資の自動車部品の製造会社に転職し、通訳として働いている。
「住居がある隣の市に自動車部品の製造をしている企業団地があったため、履歴書を持参してアポなしで会社を回りました。中に入れず守衛に託すこともありました。そうして応募した中の一社が現在の会社です。友人の知り合いが働いており、社員を大切にする会社と聞き、興味を持っていました」
メキシコ人の働き方は日本人と真逆で、自分で考えて動くのが基本。そのため指示どおりやることが苦手な面もあるという。
「でもメキシコで働くなら、メキシコの文化を尊重すべき。円滑に働けるようにお互いにコミュニケーションを取るようにしています」
配属先はアマゾン地域に隣接するモヨバンバ郡役所の固形廃棄物課でした。当時、JICAは有償資金協力で地方都市の処分場の建設を支援していました。私の配属先はその対象の一つであり、分別回収事業を拡充するための環境教育を行うことが要請内容でした。具体的には、小・中学校、高校、大人が集まる市場、公民館などで「ごみを道に捨てない」「ペットボトルや缶はリサイクルできる」といった基礎知識を事例を挙げながら伝えました。ポイ捨てをするバスの運転手も多いので、バス停に運転手を集めて講座を開いたこともあります。2020年4月にコロナ禍で一斉帰国し7月まで自宅待機となってからは、オンラインで同じく待期中の環境教育隊員同士で部会を開き、近況報告を行いました。
任期終盤にメキシコにある人材会社に登録し、2020年3月上旬から数社にエントリーしました。中旬から下旬にかけてオンライン面接を行い、4月に内定をもらいました。そして、20年7月に任期が終わったと同時にメキシコに渡航し、働き始めました。
前職を退職後は、ゆっくりと転職先を見つけることにしました。採用情報はメキシコ日本商工会議所のホームページで探しました。加えて、住まいの隣のシラオ市に日系企業を含めて自動車部品の製造やその下請け、物流などの企業が100社以上集まっている工業団地があったので、気になる会社があると履歴書を持参しました。守衛に「仕事を探しています」と、日・英・スペイン語で書いた履歴書と職務経歴書を渡すこともありました。計20社くらいに渡したと思います。履歴書には協力隊での活動のことも書きました。協力隊に良いイメージを持っている人が多く、異文化理解や壁をつくらず現地の人とつき合える資質があると評価されているようです。
履歴書を渡した1社から、2カ月後くらいに、日本語・英語・スペイン語を話せる事務スタッフを探していると電話があり、面接をすることになりました。面接官は日本人2人、メキシコ人3人で、日本語、スペイン語、英語を交えてのやりとりでした。面接では、メキシコ人と働くことについてどう思うか、メキシコ人と働く上で気をつけていることは何かなど、前職の経験を踏まえ具体的なことを聞かれました。
事務スタッフを探していると聞かされていましたが、実際には日本語、スペイン語ができる通訳でした。通訳の経験も業界の専門知識もないので「即戦力を求めているなら私は向いていない」と伝えましたが、学びながら会社になじんでほしいと言われ、働くことを決めました。現在は品質の部署で、品質管理専門の日本人技術者と現地スタッフの間に入り、技術的なアドバイスの通訳をしています。最初は専門知識がなく、言われた言葉をただ伝えていただけでしたが、入社から1年がたち、だんだんと仕事内容を理解して通訳できるようになりました。
進路に悩んだ時には、周りの人にやりたいことを話してみるのも大切です。海外で働きたいと思うのであれば、OVや派遣国のJICA事務所の方に相談してみるのもいいと思います。私自身、転職活動中に、協力隊時代にお世話になったJICAペルー事務所の所長に相談に乗ってもらいました。すると、メキシコ事務所の所長につないでくださり、JICAの企画調査員(ボランティア事業)、大使館などで働いている方を紹介していただきました。結局、就職にはつながらなかったのですが、自分の経験だけではわからない多様な選択肢があることを知ることができました。
Text=油科真弓 写真提供=菅 由布子さん