[特集]任地での活動を充実させる!
語学力の伸ばし方&コミュニケーションの工夫

協力隊員が任地での活動や生活を送る上で不可欠なのは、現地の人と仲良くなること。そのためにも、「言語」をしっかりと身につけて意思疎通を図りたいところですが、なかなか思うように聞いたり話したりできるようにはならないものです。
今回の特集では5人の先輩隊員の方々に、現地での語学力のブラッシュアップや、ローカルな言語の習得、コミュニケーション方法の工夫など、任地での活動を円滑にするために取り組んだ手法を伺いました。派遣国や配属先の条件によって有効な手段は千差万別なので、ここでピックアップした事例を参考に、自分だけのやり方を見いだしてほしいと思います。

CASE1【英語】
英文日記で苦手な英語を克服
あえて通訳を介した活動も

橋本知典さん
橋本知典さん
ガーナ/小学校教育/2018年度2次隊・愛知県出身

大学生の時の教育実習先で協力隊経験者に出会ったことで触発され、大学を卒業した2018年に協力隊員としてガーナに赴任。コロナ禍による一斉帰国後、小学校の常勤講師として約1年6カ月勤務。現在は民間企業の営業職に就いている。


「学生時代から英語が苦手で、派遣前訓練中は語学で精いっぱいでした」と振り返るのは英語が公用語のガーナで小学校教育隊員として活動した橋本さんだ。危機感を持って臨んだ訓練で、語学の先生に授業外に自室でできる勉強法を尋ねたところ、勧められたのは「短くてもいいから、英語の日記を書くこと」。訓練中、毎朝先生に添削してもらって続けただけでなく、ガーナへ赴任してからも習慣として継続した。

「まず、その日にあった出来事で人にしゃべりたいようなことを日本語の短文でさっと書いてみます。それを試行錯誤して英訳するのですが、自分自身が言いたいことや伝えたいことなので『こういう表現で、自分の伝えたいことを言えるのか!』と意識に残ります」

   もちろん、任地に行ってからでは添削を受ける機会はなかったものの、教科書などで受動的にインプットするよりも言葉の定着度は高かったという。

ニュアンスがうまく伝わらない?
英語→英語の〝通訳〟で打開

   橋本さんは、現地の教育事務所に相当するガーナ教育サービス・ジャシカン郡事務所に配属され、二つの小学校を巡回し教員への技術指導や授業の改善策の提案などに携わった。その一環として任期1年目の時、各地の隊員も集めて各種教科の講座を行う一日がかりのワークショップを開催した。その際に試みたのが、配属先のカウンターパート(以下、CP)や同僚らに〝英語通訳〟として参加してもらうことだ。

〝通訳〟を活用してワークショップを盛り上げた橋本さん。「言葉の壁によるストレスがなくなったことで、参加する先生たちの集中度や安心感が増し、質問なども増えました」

〝通訳〟を活用してワークショップを盛り上げた橋本さん。「言葉の壁によるストレスがなくなったことで、参加する先生たちの集中度や安心感が増し、質問なども増えました」

   実は、普段の巡回活動において、教員との会話が微妙にかみ合わなかったり、橋本さんの発した言葉の意味を考える〝間〟ができてしまうことがあった。それは日本で教わった英語とガーナ人の話す英語で発音や語彙が違い、基本的な意味は通じても、ニュアンスがうまく伝わっていないためだった。

   ところが、「ある時、その場にいたCPが僕の話した内容をペラペラッと英語で補足すると、皆が納得の表情をしたことがありました」。これをヒントに、ワークショップでは橋本さんの英語に慣れているCPらに通訳を依頼。事前に文面の資料を渡し、入念な打ち合わせを行って当日に臨んだ。

「ガーナ人のCPたちのほうが現地の人の〝ツボ〟を心得ていて盛り上げ上手なこともありワークショップは大盛況。教員側からの質問も普段の巡回時より増えました。自分の語学力を改善するのはもちろん大事ですが、周りの人にうまく頼って意思疎通を補完するのも有効なのではないでしょうか」

   この取り組みはその後、ガーナ隊員のワークショップツアーのモデルケースにもなったが、思わぬ副産物もあった。「事前に資料を読み込むので、僕たち教育系隊員がやろうとしている活動内容を、配属先の人によく理解してもらう機会になりました。さらに、CPだけでなく何人もの同僚に通訳という形で当事者として参加してもらったおかげで、現場の盛り上がりが配属先で広く共有され、その後は職員たちの士気も上がるなど、単に自分の語学力を補完するだけにとどまらず、良いことづくめの試みだったと思います」。


先輩達のお薦めする語学参考ツール

橋本知典さん

https://note-recipy.polyglots.net/


Text=梶垣由利子 写真提供=橋本知典さん

知られざるストーリー