服飾関係の大学に在学していた時に、説明会で協力隊に関心を持つ。実務経験を積むため、母校で助手として5年間勤務しながら、フリーランスのデザイナーとしても活動。2018年に協力隊員としてジブチに赴任し、帰国後は通信制高校で働く傍ら、フリーランスのデザイナーも続けている。
2018年から服飾隊員として、職業訓練校であるジブチ女性連合の縫製コースに派遣された小笠原さん。着任するとすぐに10代後半から20代前半の生徒が学ぶクラスを受け持つことになり、ミシンを使った縫製などの指導に取り組んだ。
ところが、ジブチの公用語として派遣前訓練で学んだフランス語で授業をしていると、「ある生徒がクラスメートに現地語で通訳しているのを見て、フランス語を理解できない生徒がいることに気づきました」。
ジブチは、公用語であるフランス語・アラビア語のほか、現地語のソマリ語とアファール語の4言語が混在する国で、特にソマリ系の国民が多い。職業訓練校は首都にあったものの、同じ民族だけが集まって暮らしている郊外の町や村からバスで通ってくる生徒も多く、クラス全体の2~3割の生徒はフランス語が理解できないようだった。
技術指導が活動の中心とはいえ、講義や説明の内容が伝わらないと授業への身が入りにくい。常に通訳できる生徒がそばにいるとも限らないので、フランス語のわからない生徒の興味が保てないのではないかと危ぶんだ小笠原さん。民族にかかわらず、多数派であるソマリ語ならばたいていの生徒が理解できたので、「自分がソマリ語を覚えたほうが手っ取り早い」と考えた。
公用語のフランス語にソマリ語を交えて生徒への指導に臨む。言葉を覚えようと積極的に周囲へ質問すると、相手も何とか教えようと頑張ってくれたという
ソマリ語は赴任直後の現地語学研修で学んでいたが、フランス語話者の先生に3週間ほど教わっただけなので、ほとんど身についていなかった。そこで小笠原さんが取り組んだのは、ひたすら周りの人に言葉を聞いて回ることだった。配属先の同僚の先生や生徒にも、「今、何て言ったの?」とその都度ソマリ語の単語を教えてもらうよう心がけ、市場などでも目の前の品物を指で差しながら、「これは何?」とためらわず何でも質問した。
「日本人の私からグイグイ声をかけると相手も『おっ?』と興味を持ち、意外に面倒見よく対応してくれました」
そんな中でお守りのように携帯していたのが、ポケットサイズの自作の単語帳。教材になるソマリ語のテキストがなかったため、使えると思ったソマリ語の言葉を自分でまとめたもので、生徒に頼んでソマリ語のつづりを書いてもらうこともあった。
「持ち歩きやすいように、単語帳は1冊だけに限定するのがお薦めです。どこに何を書いたかすぐわかるよう、『時制』『数字』『挨拶』『定型文』『頻出単語』といった項目を立ててページ分けをしていました」
それでも、ソマリ語だけの文章をすらすら話すまでには至らなかったが、「フランス語とソマリ語は文法が似ています。フランス語の文章にソマリ語の単語を交ぜて置き換えるだけでも、かなり理解してもらえました」
クラスでソマリ語を交えて指導し始めると、生徒からの質問も目に見えて多くなった。「手工芸品の写真を持ってきて、自分もこれを作りたいと相談してくれる生徒も出てきました」。
自分なりの方法で現地語に挑んだ小笠原さん。生徒との距離感を縮めることに成功し、信頼関係を築いていった。
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Text=梶垣由利子 写真提供=小笠原和佳奈さん