2018年7月に新卒で環境教育隊員としてスーダンに赴任。翌年4月、社会情勢不安によって退避を余儀なくされ、日本での一時待機後、エジプトへ任国変更となる。コロナ禍で帰国し、IT企業での勤務を経て、現在は教育関係の仕事に就いている。
「アラビア語は全くの初心者だったのですが、大学時代にスペイン語とフランス語を学び、英語を含めて簡単な会話はできていたので、自分に向いた語学の学び方を生かしました」と語る黒松さん。その勉強法とは、目で覚えることである。日本人にはなじみのないアラビア文字だが、頻繁にテキストを開いては単語を目に入れることを繰り返した。
「ほんの1分の空き時間でも、アラビア語の単語や文を眺める回数をとにかく増やすことで、その〝形状〟を頭に焼きつけてしまうイメージです」
その上で、覚えた内容を頭の中で反すうしながら他のことを行い、またテキストを開いて単語を見ることを反復すると、一層よく定着したという。
加えて、「訓練所の語学クラスの先生から定型文をアラビア語と日本語で交互に読み上げた音声データをもらえたので、それを四六時中、聴くようにしていました」。
目と耳からのインプットを合わせてアラビア語の基礎を身につけ、スーダンへと赴任した。
用意した紙芝居を見せながら話す黒松さん。クイズなど、あらかじめ準備できるアクティビティも活用して授業に臨んだ
黒松さんへの要請は首都ハルツーム近郊のユースセンターで環境意識を啓発することだったが、スタッフたちの環境教育への関心やニーズは乏しかった。そうした中で黒松さんは、まずスタッフたちとの関係づくりを図る傍ら、先輩隊員が活動する小学校で、生徒に環境教育のプレゼンテーションなどをする機会を得た。
ただ、ゴミの分別の仕方のように簡単なことはアラビア語で話せても、詳しい理由までしっかり説明するだけの語学力はまだなかった。しかも、「訓練所で学ぶフォーマルな正則アラビア語の『フスハー』に対し、現地で話される口語の『アンミーヤ』はスーダン独自の方言です。例えば同じ単語であっても、読み方や意味が異なっていることもありました」。1回につき40分ほどの授業時間を与えられていたが、その時間いっぱいを乗り切ることは困難だった。
そこで考えたのが、あらかじめ内容の決まった紙芝居を用意することだ。〝ゴミをポイ捨てすると、プラスチックなどは自然分解されない〟といった内容をイメージした絵を数枚描き、「伝えたいことをまずは日本語の文で取りまとめてからアラビア語に訳し、すらすら読めるよう、紙芝居の裏側にローマ字で読み方を書き込みました」。そして、子どもたちからの質問に答えられるようにアラビア語の想定問答も徹底的に考えるなど、「とにかく準備をしっかりして臨むことを意識していました」。
完璧とはいえない語学力で授業の体裁を最低限でも整える工夫として取り組んだ資料作りだったが、意外にも、それ自体が語学力の向上にもつながったという。
「紙芝居などを作る中で、現地語の語彙が増えたという実感がありました」。具体的に伝えたい内容を考えて試行錯誤するからこそ、調べた単語や表現が深く身についたようだ。
Text=梶垣由利子 写真提供=黒松邦至さん