[特集]任地での活動を充実させる!
語学力の伸ばし方&コミュニケーションの工夫

CASE4【ネパール語】
赴任して直面した会話の困難
地道な勉強と工夫で乗り切った2年間

高知尾明彦さん
高知尾明彦さん
SV/ネパール/交通安全/2016年度1次隊・神奈川県出身

家庭教師や塾講師、学習塾経営からタクシー会社に転職し、21年間運行管理や乗務員教育に携わる。協力隊として活動した妹夫婦の経験を聞きJICAの活動に興味を持つ。定年を前に自分の経験を海外で生かしたいと考えて応募し、62歳で退職してSVとしてネパールへ。帰国後も東京五輪のボランティアや、NPO法人「シニアボランティア経験を活かす会」主催の日本語支援教室や小中学校の日本語初期支援に参加するなど精力的に活躍している。


   62歳で一念発起してシニア海外ボランティア(以下、SV)に応募した高知尾明彦さん。派遣国はネパールで、訓練所で学ぶのはネパール語である。ただ、同じ隊次でネパール語を学ぶSVは高知尾さんを含む2人だけだった。担当の講師ともう一人のSVは英語が堪能で、高知尾さんも塾講師時代に英語を教えていたので基本的な会話はできた。それで講師も英語による説明が中心となり、結果的にネパール語での会話練習が少なかった。赴任後の現地語学研修も同様で、「文法は理解できても、会話練習がおろそかになりました」。

   高知尾さんへの要請は、ネパール警察首都圏交通警察局で交通安全に関する助言や啓発活動をすることだった。上級職員やCP以外は英語を解さない職員が多かったので、活動ではネパール語を話すようCPから求められた。

「運転免許教本などもネパール語で書かれていますし、何をするにもネパール語でやりとりする必要に迫られました」

   そこで、現地の語学研修で通った語学学校で個人レッスンを週2回受けることに決めた高知尾さん。活動も始まっているので、交通安全に関わる内容に絞った実践的な勉強を意識した。

「ネパール語の運転免許教本や交通事故のニュース記事・動画を用意していって、『この言葉の意味は?読み方は?』と尋ねては英語に訳してもらい、同時に現地の交通事情も学びました。プレゼンなどの資料を作成する際には、日本語でまとめた情報をいったん英訳し、それを先生にネパール語訳してもらうなど、試行錯誤しながら語学習得を活動と並行して行いました」。

挨拶への特化と
表情からの類推で会話を補う

交通警察内のFM放送局で働く警察官と。高知尾さんがネパール語で用意したドライバー向けの交通安全メッセージも、ラジオで放送された

交通警察内のFM放送局で働く警察官と。高知尾さんがネパール語で用意したドライバー向けの交通安全メッセージも、ラジオで放送された

   とはいえ、話す力を身につけるのは難しかったという高知尾さん。「ネイティブの先生のサポートで資料は自然な文章になっていたので、私が普通にネパール語を話せると思ってやって来る職員もいましたが、そこにいるのは、しどろもどろの日本人です(笑)。相手も困惑して会話が始まりません」。

   そこで工夫したのが、挨拶などの日用語を集中的に覚えることだった。「現地ではまず『ナマステ』と言い、次に『元気ですか?』という挨拶が続き、そして、『ご飯食べましたか?』と聞くのが定番のやりとりです」。導入のやりとりをスムーズにすることで、相手から諦められず、その先の会話へ発展させる糸口をつくることができた。

   その他にも、ネパールでの生活経験を積むにつれて言葉以外の情報による洞察も働くようになったという。

「赴任から1年を過ぎる頃には、言葉だけではわからない部分を相手の目や表情から推測できるようになりました。また、知人のネパール人作家の絵本を英語から日本語訳する作業を手伝う機会があり、ネパールの民話を通じて宗教や価値観を知ることができたのも、現地の人の気持ちや考えを類推する助けになったと思います」

   語学力は当然大切だが、文化・習慣など背景の知識を深めるのも、有効なコミュニケーション手段といえそうだ。


先輩達のお薦めする語学参考ツール

高知尾明彦さん

https://miyachika-pokhara.com/


Text=海原美帆 写真提供=高知尾明彦さん

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