※人数は2024年2月末現在
PROFILE
沖縄県の教諭として高校で地学を4年間教える。自然災害や防災について教えた経験を海外で生かすこと、地震や豪雨など同じ課題を持つ国の人々と考えること、行政側から学校や地域に関わる活動がしたいと、現職教員特別参加制度を利用して協力隊に参加。帰国後は復職し、高校で地学を教えている。
配属先:アセリ市役所
要請内容:日本の防災手法などを用いて、地域住民への防災啓発、防災に関する講習会や防災フェアなどを実施する。また、既存の防災教材や危険マップなどを有効に利用し地域住民、教師、生徒に防災教育を普及する。
PROFILE
大学で土木工学を専攻。建設コンサルタント会社に2年勤務後、海外で経験を生かしたいと協力隊に参加。帰国後はJICAジュニア専門員、JICAエチオピア事務所の企画調査員(ボランティア事業)を経て、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)のプロジェクトに携わりトルコに赴任中。
配属先:国家災害管理局
要請内容:国家災害管理局本部で防災教育・防災啓発活動、災害発生時の緊急対応、災害情報管理などを同僚と共に行い、自身の経験を生かし、市民の減災、同局の能力向上に貢献する。
防災・災害対策隊員の配属先は、政府の危機管理庁や地方自治体の災害対策部署などがある。それぞれの地域で発生しやすい災害に応じた防災と災害対策の策定、地域や学校などを対象にした防災講習の企画・実施など活動は幅広い。隊員には、災害対策や防災教育などに携わった実務経験を生かした活動が期待されている。
新里 拓さんはコスタリカのアセリ市役所の「緊急災害対策委員会」に所属し、地域住民に対する防災知識の啓発や、小中学校・高校での防災授業を行った。アセリ市は洪水や地滑り被害が多く、住民の防災意識の向上のための防災教育が欠かせない。
新里さんは各コミュニティに連絡し、その地域の防災リーダーと共に家庭訪問し、市が発行するハザードマップを渡しながら、各家庭の立地条件や周囲の環境を見て防災指導を行った。
訪問と同時に防災意識の調査も実施した。防災・災害対策について尋ね、回答を記録していった。
「配属先に調査結果を共有することで、緊急災害対策委員会で検討すべき課題を把握してほしいと考えたからです」と新里さん。委員会には警察、消防、赤十字の代表が出席しており、広く問題点を周知できるからだ。
訪問数は400軒を超えた。防災袋を救急箱のことだと思っていたり、避難経路を家族で話し合っていなかったり、ハザードマップの存在を知らなかった、という人が相当数いた。
学校を訪問しての防災授業では、小学生には災害発生時の初動についてクイズやかるたなどを使って楽しく学んでもらい、中高生には自宅の家具の配置を描かせて、危険箇所や安全な場所を意識するよう指導した。
ある学校を訪ねると、生徒は2人だけで、校舎にはヒビが入っていた。校長に聞くと台風で被災し、生徒の一人は家を失い、大勢いた生徒は他の学校に移ったばかりという。「こんな学校にも来てくれて本当にありがとう」。その言葉が心に響き、訪問件数など「数」にこだわりがちになっていた自身をいさめたと新里さんは振り返る。
赴任当初、カウンターパート(以下、CP)が小学校での防災授業をセッティングしてくれ、私が実施して成功しました。そのため学校や地域への訪問はCPが段取りをしてくれるものだと思い込み、資料や教材作りをしながら「まだかな」と声がかかるのを半年ほどもんもんと待っていました。ある日、CPから「タクは何をしたいのか言わないね」と言われ、待っているだけではダメだと気づきました。CPに地域や学校へ訪問したいことを伝え、自分から積極的にアポを取るようになりました。
新里さんが作った「防災かるた」で災害が起きた時にどう行動するかを学ぶ子どもたち
緊急災害対策委員会の会議で発表する新里さん
各訪問先の防災リーダーたちが私の活動に理解を示してくれて、とても協力的でした。自分たちの地域に災害リスクがあることを認識していて、「何とかしなければ」と思っており、各家庭へ防災アンケートをしに行く際も賛同して同行してくれました。防災授業の申し出を快く受け入れてくれた校長先生方も同様です。そうした協力がなければ私の活動は全うできませんでした。
ソロモンの災害対応力の強化につながるよう、配属先の同僚にドローンの技術を教えたのが雨宮 聖さんだ。
国家災害管理局は、防災、被災後の緊急対応、復旧・復興活動を統括する部署だ。ソロモンはサイクロン、地震、津波など自然災害が多く、島嶼国のため交通・通信インフラが乏しい。情報を住民に迅速に伝達し、緊急援助を行うためには、災害状況をいかに素早く収集するかが重要な課題だ。
雨宮さんは前職で橋の耐震設計に携わり橋梁の維持管理のためにドローンについて学んでいた。ちょうど配属先に国連からドローンが寄贈された時期だったため、ドローンを教えることが活動の中心になった。
雨宮さんから、運用・管理方法、操縦法から現場での利活用までひととおり教わった同僚たちは、他の職員に指導できるまでにスキルを身につけていった。
雨宮さんのCPが留学のため交代してからは、CPが行っていた他の省庁へのドローン紹介も、雨宮さんが引き継いで行った。「ドローンの活用方法を知っている人をできる限り増やすことが大事だと考えたからです」。
配属先でも、災害の被害状況の確認や評価のほか、沿岸コミュニティの防災プロジェクトでは写真データを活用し津波からの避難マップの作成も行うなどドローン活用が進んでいった。
任期終盤にはタンカーが座礁し重油流出事故が発生した。配属先はドローンでモニタリングを行い、それを基にオーストラリア政府へ協力を要請した。
「重油流出は初めての対応でしたが、オーストラリア政府から、飛行機による写真よりもわかりやすくて役立ったと評価され、ドローンの有効性を皆で実感する大きな出来事となりました」
ドローンを操縦できるようになった同僚一人だけで業務をしてもらったところ、本人の視界の範囲外に飛ばしてドローンを紛失することがありました。いつ操縦を再開させるか悩みましたが、事故の原因をきちんと指摘し理解してもらった上で、事故防止、安全対策などの集中指導を行いました。その結果、一人で操縦する際は周囲の状況を確認しドローンの監視役を他の人に頼んで飛ばすことを徹底しました。教える内容を深める大切さを学びました。
ドローンで撮影したタンカーの画像には、漏れ出した重油(海中の黒い部分)の様子が鮮明に記録されている
ドローンの操作を国家災害管理局の同僚に指導する雨宮さん
ドローンが実際にどれだけ役立つのかは配属先にあまり認識されていない状態でしたが、タンカーの重油流出事故でドローンによる状況把握が評価されたことは自信になりました。また、他省庁の職員にドローンを教えていたCPが留学で不在となり、以降は私が教えました。その後、他省庁でもドローン活用が進み、国連から「大洋州でソロモンが最も進んでいる」とドローン活用プロジェクトの継続を示してくれた時に大きな手応えを感じました。
Text=工藤美和 写真提供=新里 拓さん、雨宮 聖さん