帰国後、内定までの就職活動の方法を聞きました。
就職先:株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル
事業概要:開発コンサルタント。社会インフラの初期調査から計画、設計、施工管理、維持管理、マネジメント、事業運営などのコンサルティングサービスを提供。
大学院修了後、出版社勤務を経て協力隊に参加した齋藤智美さん。大学院でジェンダーの研究をしていたことから、女性支援に関する要請を探して応募した。派遣先の東ティモールでは、女性の生産者グループを支援したが、活動中に感じたのは、地方と首都との地域格差だった。「地方というだけでさまざまなチャンスが奪われていました。翻って自分の出身地の新潟を思うと日本も同じです。帰国後は日本で、地域活性や地域貢献につながる仕事をしたいと思うようになりました」。
そこで探した就職先は、クラウドファンディングサービスを提供しているベンチャー企業のREADYFOR(レディーフォー)株式会社。
「協力隊の活動で、何を始めるにもお金が必要だと痛感しました。その部分をサポートできることと、地域活性や国際協力のプロジェクトもあるということが、決め手となりました」
しかし、入社して3年がたつと、国際協力の現場に戻りたいという気持ちが強くなってきた。
「100以上のクラウドファンディングのプロジェクトに携わりましたが、中でも国際協力のプロジェクトへの思い入れは特に強く、それが私の一番関心のある分野だと気づきました。違う業界に転職するなら年齢的にラストチャンスかもしれないという気持ちもありました」
そんな思いを協力隊時代の仲間に相談したところ、株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバルの社員を紹介され、会うことになった。
「開発コンサルには興味があったのですが、理系が多いイメージがあり、文系の私には自信がありませんでした。そんな迷いも、直接会って話すことで解消できました」
入社からもうすぐ1年。現在は、中小企業の海外進出を支援する案件などに携わり、海外への出張も多い。
「やりがいを感じるのは、現場で現地の関係者の反応に触れられる時です。プロジェクトに関わって機材の設置が実現した時など、この仕事に携わって良かったと感じます」
首都の展示会で農産品や特産品を生産者グループと販売する齋藤さん
要請内容は、東ティモール第2の都市バウカウのコミュニティ開発センターで、11ある女性生産者グループの農産物の加工・販売活動を支援することです。生産者グループは、活動が軌道に乗っているところもあれば、支援の手が届いておらず活動が滞っているグループもありました。私は後者の支援に力を入れることに決め、メンバーが何に困っていてうまくいかないのかヒアリングしながら、他のグループと差別化するための商品開発のアイデアを出したり、パンフレットなどの販促材料を作ったりしました。
任期終了の半年くらい前から日本の地域活性化に取り組む企業や団体を掲載しているサイトの「日本仕事百貨」、スモールビジネスやベンチャーを紹介しているアプリ「Wantedly」などで求人情報を収集し、そこでREADYFOR株式会社の求人を見つけました。学生時代に社長のインタビュー記事を読んで面白い取り組みだと思ったことを思い出し、1月に帰国してすぐにエントリーし、採用となりました。
キュレーターとして、クラウドファンディングを希望する人と、何を目的にやるのか、資金をいくら集めたいのか、いつ始めるのかなどを相談しながらプロジェクトを立ち上げていきました。入社3年目に転職を考えるようになり、友人の紹介で株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバルの社員と会いました。そこで会社の事業について説明を受け、採用試験を受けることを決めました。
履歴書、職務経歴書を提出しました。私の職務経歴は、出版社、協力隊、ベンチャー企業と、一貫性がありません。自己PRではその点を強みにするため、いろいろな経験をすることで多様な視点を持てたこと、それがこれからの業務に生かせることを強調しました。
テーマは志望動機、コンサルタントとして何をやりたいか、という内容だったと記憶しています。
1回目の部門長との面接では、前職でのクラウドファンディングサービスや協力隊の活動について聞かれました。協力隊については、どのような環境で生活していたのかを確認されました。コンサルタントは海外で厳しい環境の中、長期間、業務に当たることがあるため、耐性を見られたのだと思います。2回目は役員面接で、私が何を専門にしてやっていきたいのか聞かれました。それに対して、大学院で学んできたジェンダー、前職で経験したスタートアップを軸に、民間に近いところでプロジェクトに携わりたいと話しました。途上国で2年間活動し、どんな状況でも何とかしてきた経験も評価されたようです。
ベトナムで水産業の案件に携わった際の写真
メインで関わっているのは、JICAが進める中小企業ビジネス支援事業や総務省が進める技術移転事業の案件です。日本の企業が持っているシステムやサービスを開発途上国で活用し、ビジネス化することができないか、現地に出向いて調査しています。また、ODA(政府開発援助)事業では、1カ月半に1度の頻度で、現地に1週間ほど滞在し、調査やヒアリングを行っています。想定外の出来事への対応や、移動が多く体力勝負のところがありますが、その点においては協力隊での経験や体調管理の習慣が生きていると思います。
就職活動においては、人によっては協力隊での2年間のボランティア活動をデメリットに感じるかもしれません。企業側も否定的に捉えることがあるかもしれません。けれど、協力隊の活動は他ではなかなかできない貴重な経験です。現地で何を経験して、何を思って次の仕事につなげていきたいと考えたのか。それを整理してきちんと伝えることができれば、就職活動でもいい出会いがきっとあるはずです。協力隊の経験をこれからの人生でどう生かすかは、自分次第だと思います。
Text =油科真弓 写真提供=齋藤智美さん