失敗に学ぶ
~専門家に聞きました!   現地で役立つ人間関係のコツ

今月のテーマ:先生たちの協力を得られない

今月のお悩み

▶理科の先生たちが実験の事前準備を拒んだり
生徒への器具の貸し出しを嫌がります(理科教育/男性)

   中学校を巡回し、理科の授業支援を行っています。

   実験器具が壊れていたりして完全にそろっていない学校が多いのですが、予備実験をせずに授業を行うのが当たり前になっていたので、先生方のほとんどが授業を始める時に初めて器具がないことや壊れていることに気づきます。

   実験器具は現地にあるもので自作できるものもあるので、方法を教えたいと思っていましたが、今までやっていなかった予備実験を勧めても面倒がられたり、使える実験器具を生徒に触らせるのを嫌がる先生もいます。そんな先生たちのやる気のなさにいら立つことも少なくありません。

今月の教える人

村山哲也さん
村山哲也さん
ケニア/理数科教師/1990年度2次隊、SV/カンボジア/理数科教師/2007年度0次隊・東京都出身

東京農工大学農学部卒業後、26歳で理数科教師隊員としてケニア西部の中等学校に赴任。帰国後、名古屋大学大学院で国際開発について学び、フィリピンの理数科教育改善を目的としたODAプロジェクトに派遣される。2001年、カンボジアの理数科教育改善プロジェクトに派遣された後、教育の質改善を目的とした教員研修プロジェクトに参画するためルワンダへ。50歳の時にルワンダで事故に遭い、車イス生活に。現在、カンボジア在住。著書に『超えてみようよ!境界線―アフリカ・アジア、そして車イスで考えた援助すること・されること』、ブログ『越境、ひっきりなし』。

村山さんからのアドバイス

▶その教員の行動にある背景を探り、
時には、こちらが一歩引いて
妥協することも選択肢の一つです

   まず「予備実験もせず授業を行う」理由は、二つあると考えられます。一つは予備実験をする時間=授業以外の時間をどう考えるかという価値観の問題があります。最近まで予備実験をする必要がなかったのに、予備実験をしなければならなくなったとしたら、その時間は勤務時間なのか。もしかすると、その時間はサービス残業になってしまうかもしれませんよね。そのことを考慮せずに予備実験を求めても、無理が出てきます。彼らには隊員が入る前からの生活があるので、それなりの配慮が必要になるでしょう。

   もう一つは、理科教師自身が実験に対する経験や理解が不足している可能性が高いこと。実験した経験がなければ、予備実験の必要性も感じないでしょう。経験豊富な先生ほど、予備実験を求められると、プライドが傷つくかもしれません。

   そして「器具に触られるのが嫌」という教員の話ですが、ケニアの田舎の中学校に赴任していた私自身、同じような人に出会ったことがあります。私の場合、授業で生徒に実験器具を使わせようとしたら、理科室を管理する助手に、実験器具の貸し出しを拒まれてしまい、実験器具を生徒にいじらせる必要はなく、教師による演示実験で十分だと言われました。

   しかし私は、そんな助手を説得し、あるだけ全部の温度計を借りて実験を行いました。配られた温度計を生徒たちが大喜びで使う姿を見て、私は大満足。しかし授業が終わった後に温度計を回収すると、何本も壊れていました。しかも生徒たちは壊れたとも何も言わず、そのまま返してきたのです。

   なぜ生徒は、実験器具を壊したことを伝えなかったか。それは壊した生徒が、器具を弁償しなければならないからです。

   日本の学校で、授業中に温度計やビーカーを壊したからといって、その弁償を求められることは、まずありません。しかし私の働いていた中学校では、学校にお金がないため、生徒が弁償を求められたのです。限られた予算の中から、何とか購入した器具を、そう簡単に壊されてしまっては学校もたまらない。生徒に器具を使わせることに慎重になるのは当然であり、だからこそ助手は、器具の貸し出しを拒んだわけです。もしかすると彼は以前、生徒に実験器具を壊されて、校長からその管理責任を問われたことがあったのかもしれません。

   当時の私は、そんな背景を知らないまま、助手から無理に器具を借り、使い慣れていない生徒に使わせて、その器具を壊してしまったのです。私の無知は、生徒にも助手にも学校にもストレスを与えていたわけです。

   今思えば、まず助手に拒む理由を尋ねて話し合い、必要なら校長の判断を仰ぐなどの対応をするべきでした。その結果、生徒にやらせることがダメで、演示実験のみになったとしても、私はそれをのみ込むという選択肢を持つべきでした。

   どうしても生徒に使わせたいなら、周りの理解を求めた上で、より慎重に器具の使い方を教えて、もし生徒が器具を壊したらどうするか、私は弁償するのがよいかどうかも含めて、よく考えておく必要があっただろうと思います。

   また私の場合、生徒に触らせるだけでなく、私が器具を洗おうとしても、助手に嫌がられました。なぜなら、彼の仕事を奪うことになるからです。同様に授業後に教室のゴミを拾い集めた時も、掃除担当のスタッフから「私の仕事を奪うな」と怒られました。かたや教師は教師で「教師たるもの教室の掃除などするものではない」と、教師という仕事への誇りがあり、掃除をすることは自分の価値を下げるという認識もありました。私が「掃除をしたら怒られた」と同僚の教員に伝えたら、「そりゃそうだ。掃除なんぞするもんじゃない」と言われましたから。

   今の私なら、もし任地に掃除人がいたら、まずその人を手伝うことから始めます。勝手にやるのはダメ。それで周りから「なんで教師のくせに掃除をしてるんだ」と言われたら、ニヤリと笑って「それがおいらのやり方」って言うかな。

   この回答が参考になるとよいのですが。

Text=池田純子 Edit=ホシカワミナコ 写真提供=村山哲也さん ※質問は現役隊員やOVから聞いた活動中の悩み

知られざるストーリー