※人数は2024年3月末現在
PROFILE
看護師として神奈川県内の病院に勤務していた時、患者との出会いでHIV/エイズ問題に興味を持ち、感染者が多いアフリカ行きを志向するように。ケニアの児童養護施設でのボランティアを経験後、協力隊に応募。現在は長崎大学熱帯医学研究所とJICAによるケニアのスナノミ感染症対策プロジェクトに携わる。
配属先:カボンド・サブカウンティ病院
要請内容:配属先を拠点にコミュニティを巡回し、HIV/エイズなどの感染症の予防啓発ワークショップの企画・開催、コミュニティの調査活動、病院でのデータ管理補佐、5S-KAIZENの視点でのアドバイスなどを行う。
PROFILE
大学卒業後、分析計測機器メーカーに勤務していた際、電車で協力隊募集の広告を見たことがきっかけで、協力隊に現職参加。帰国と復職を経て、ODAなどの国際協力における資機材の調達代理・調達監理業務を行う機関に転職。業務の一環でソロモンも訪れている。
配属先:ガダルカナル州政府マラリア対策課
要請内容:マラリア対策活動の立案、実施、報告に対する助言、コミュニティにおける効果的な啓発活動に対する助言や実施支援。パソコンの操作などの業務を通じて課内スタッフの能力向上を図る。
エイズをはじめ、マラリア、フィラリア症、シャーガス病、結核、ポリオなどの各種感染症の予防や撲滅に取り組む「感染症・エイズ対策」。看護師や保健師など保健衛生領域の資格・免許が必要な場合もあるが、それらを必須としない要請もある。
鈴木佳奈さんが赴任したケニア西部のカボンドは、ケニアでもHIVの感染率が高い地域。政府や海外NGOの支援により減少傾向にあるとはいえ、ケニア国内ではいまだ突出している。
まずは現場のニーズや課題を探ろうと病院や保健事務所の活動に同行して回った鈴木さん。予防・治療のための支援と比べ、感染者の生活サポートが弱い状況がわかった。特に、感染者のピアグループに参加するのが女性に偏り、患者間の悩みの相談や情報共有、共助といった機能が十分果たされていないことが課題だと感じた。
「女性はおしゃべりなどが好きで集会にもよく参加してくれるのですが、男性は何か具体的なメリットがないと来たがらないようでした。ただHIV/エイズは男女両方の問題なので、男性にも参加を促す必要がありました」
そこで鈴木さんが働きかけて始めたのがせっけん作りだ。グループ活動としてせっけんを作り、学校や病院へ販売することで現金収入につなげる。週に1回、地域に暮らす感染者が男女で集まり、せっけんを作りながら世間話をする中で、感染者同士の情報共有も増えていった。
地域の巡回と共に、配属先の中核病院での5S-KAIZEN(※)活動にも力を入れていた鈴木さん。ある時、期限切れの薬剤が大量に出てきて衝撃を受けた。しかし、さらに驚いたのは同僚の「補充する薬がないから、期限切れでもないよりはまし」という言葉。
「日本の常識なら捨てて入れ替えるのが当然ですが、現地の実情では貴重な薬剤です。自分のカルチャーを持ち込んで善しあしを決めつけてはいけないと肝に銘じた経験です」
※5S-KAIZEN…日本の産業界で開発された職場環境改善・品質管理の手法で、5Sは「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」の頭文字を取ったもの。5Sの考え方をベースに、現場主導で職場の問題を改善していくアプローチをKAIZENと呼ぶ。
私が帰国した後も5S-KAIZEN活動を継続してもらうにはどうしたらいいのか、本当に悩みました。薬剤部、看護部など各部署からメンバーを募ってQIT(Quality Improvement Team)をつくり意見交換も行いましたが、散らかっていることが恥ずかしいとの理由から整理を行う人はいても、業務の効率性や患者の安全への意識を理解するところまではいきませんでした。ただ、5Sは今も配属先で続いているので、やったことは無駄ではなかったと感じています。
仕事のない若者が多くいたことから、地元の若者グループとも一緒にHIV/エイズ対策の啓発活動をしました。例えば世界エイズデーでの地域イベントに向けてメッセージを考え、その言葉と絵を描いたステッカーを公共交通機関に貼らせてもらったり、小学校を訪問してHIV/エイズの話をしたり。自分の役割を見つけて生き生きと熱心に活動している若者の姿を見た時はとても嬉しかったです。
石川陽介さんが感染症・エイズ対策職種で応募したのは、当時の日本の職場で感染症の早期発見のための検査装置を扱っていたためなじみある分野だったことが大きい。配属先では4代目の隊員だったこともあり同僚は非常に好意的だったが、マラリア対策の活動に関する具体的な要望はなく、本格的に取り組むテーマが見つからないまま半年ほど過ぎてしまった。
そんな中、カウンターパートのプログラムマネージャーから、マラリア対策に関わるマッピングができないかと相談された。マラリア対策に資金援助をしているグローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)が支援条件として求める指標に基づき、配属先の対策活動の項目として「マッピング」が加わったためだ。
これは地域の情報を地図などに紐づけて見える化する手法で、マラリア対策に限らず、課題の共有に役立つ。ただ、具体的にどんなものを作るかというイメージはなく、石川さんに一任された。そこで石川さんはグーグルのマイマップを利用。村の位置や人口、マラリアの患者数を入力・記録し、マラリア多発地域や件数を月次更新で地図上に表示できる仕組みを作った。
「通信・交通インフラの不備で各地の感染データ収集は紙ベースで3カ月遅れということもありました。マッピングに最新の感染状況は必ずしも反映できませんでしたが、過去の患者数の変化を視覚的に示すことで、各地での予防活動の参考になると期待しました」
もっとも、州内には村が数百もあり、所在不明の場所も多かった。近隣出身の同僚を見つけておおよその地点を教えてもらって地図に入力するなど一筋縄ではいかない取り組みを地道に続けた石川さん。任期終盤には、データ入力からレポート作成までの運用方法をマニュアル化した。同僚たちだけによる運用は見届けられなかったが、一連のツールを残して活動を終えた。
マッピングツールを作成したものの、首都近郊以外は通信インフラが極端に不足している上、交通機関も乏しいので自ら地方を巡回する機会も少なく、なかなか成果を各地の現場に還元できなかったことがつらかったです。活動終盤になってようやく、各地域の診療所の看護師さんたちにレポートの活用方法などを伝えることができましたが、それまではもどかしさを感じていました。
任期1年目の終わりに蚊帳配布のための長期出張があり、初めて州内の村を見て回ることができました。地方に行くと、日々の生活をどうするかということが最優先で、マラリア対策が後回しになってしまう事情も理解できました。この出張を通じて人々の暮らしをより深く知れたことで、新たな気持ちで任期後半の活動に取り組むことができました。
Text=油科真弓 写真提供=鈴木佳奈さん、石川陽介さん