帰国後、内定までの就職活動の方法を聞きました。
就職先:北海道庁
事業概要:日本最北端に位置し、冷涼な気候と豊かな自然を特徴とする北海道。道全体の広域行政を担う道庁には、札幌市の本庁のほか14の総合振興局・振興局が設置されていて、広大な道内において道庁が管轄する業務の実施に当たっている。
子どもの頃から野生動物を保護する仕事に憧れていた橋本道太郎さん。大学で、環境保全のためには野生動物、自然環境と人間の関係を改善することが重要だと学び、将来は行政で環境保全に携わる仕事をしたいと考えるようになっていた。同時に、海外に行ってみたいという思いもあり、社会人になる前に協力隊に参加することを決めた。協力隊を選んだのは、両親がOVで、幼少期から協力隊を身近に感じていたことも大きかったという。
ペルーでの橋本さんの活動は、アマゾン川流域の都市・イキトス市を拠点に、先住民が暮らす自然保護区に出向いて環境教育を行うというもの。長期で保護区内に滞在した時には、毎日100カ所以上も蚊に刺され続けるという過酷な体験もした。
「電気も水道もない村落ばかりで、暑さと湿気がすごいんです。教材として現地の生き物の折り紙を折っても一晩置くと湿気を吸って開いてしまうほどでした」
しかし赴任から8カ月後、コロナ禍による一斉帰国が決定。再派遣を待ちながら、北海道の自然環境の調査・研究を行うNPO法人で働き始めた橋本さん。所属する研究者や連携する鳥獣捕獲事業者と接する中で、行政と、行政から委託を受ける現場、研究者の関係が見えてきた。
「事業者は行政の委託を受けて捕獲業務を行いますが、現場と行政担当者の認識の乖離や温度差を感じる場面があり、改善することができないかと思うように。以前は漠然と行政で働きたいと思っていましたが、より積極的に、目的をもってそこに関わりたい考えが芽生えました」
働きながら受けた道庁の採用試験は、2度目の挑戦で合格した。
「現場から行政に立場が変わったことで、必ずしも鳥獣捕獲事業者や研究者の論理ばかりが正解ではなくなり、ジレンマを感じることもあります。ただ、それぞれの視点での経験を自分の強みにして、北海道の自然環境保全に寄与していきたいと思っています」
配属先は環境省の下部組織である国家自然保護区管理事務所(SERNANP)のイキトス事務所でした。アマゾン川流域の自然保護区を管轄しており、そこで暮らす先住民の子どもたちに環境教育を実践していくことが要請内容でした。当初は配属先の活動についていくばかりでしたが、半年後にはジャングルに囲まれた保護区に1カ月間滞在し、環境教育を行う機会がありました。私が考えたのは、折り紙で流域にすむ野生生物を作り、人間との関わりを説明するというものでした。この経験を次に生かそうと街に戻ってきたところ、新型コロナウイルス感染症の流行によるロックダウンが始まり、結局、職場に出られないまま一時帰国となりました。
再派遣まで時間がかかりそうな状況下、人づてに、札幌市のNPO法人エンヴィジョン環境保全事務所の職員募集のことを聞いて応募しました。この時はぺルーに戻って活動を続けるつもりでいたので、契約スタッフとしての採用を選びました。
同法人の活動の一つがエゾシカやヒグマなどの野生動物のデータの収集です。出没・捕獲などの情報があると現場に出向き、鳥獣捕獲事業者らからヒアリングをし、調査結果を役所に報告します。将来的に野生動物の仕事をしたいと思っていたこともあって、ここでキャリアを積むことに魅力を感じ、2021年3月頃にペルーに戻らないことを決めました。
NPO法人で働きながら2021年度の北海道庁の採用試験を受けました。さまざまな分野への異動がある一般職ではなく、環境行政専門の「環境科学」という職分で受験しましたが、結果は不合格。翌年に再挑戦するため、公務員試験の過去問集などを購入し、独学で改めてしっかり勉強し始めました。道庁ホームページに公開されていた過去問題や先輩のアドバイスも参考にしました。
環境科学の採用試験は、1次試験が筆記の基礎力試験と専門試験、2次試験が面接でした。面接では、協力隊員時代に、異なる言語・文化の人たちとどのように意思疎通を図ったか話し、NPO法人の活動に関しては、環境保全の現場での体験が行政で仕事を進める上での強みになるのではないかと強調しました。
道庁の留萌振興局環境生活課に配属され、自然環境係としてエゾシカの捕獲事業、ヒグマなど鳥獣関係の各種調査、自然公園施設の整備などを行っています。エゾシカの捕獲事業では委託事業者への依頼、その他の鳥獣関係では、ヒグマの情報を取りまとめて管轄している市町村に情報を発信したりしています。捕獲事業者らと一緒に野生鳥獣の捕獲現場に出ていた前職から、それらの人々への委託を行う立場になりましたが、現場を知っているからこそ気を配ったり、できることがあると思って活動しています。
私は人と話すのが得意ではなかったのですが、協力隊で異国・異文化の人たちと接することを通じて、とにかくなんでもいいからアウトプットを図るなど、自分の意思を伝えようと努力する力を身につけることができたと感じています。どんな仕事でも人と関わっていくことになるので、この経験は絶対に生きるはずです。協力隊での活動の成否とは別に、その経験を自信につなげるとよいと思います。
Text=油科真弓 写真提供=橋本道太郎さん