[特集]先輩たちの工夫に学ぼう
活動立ち上げ期の乗り越え方

お悩み3[配属先・任地に溶け込むには]
オリジナル組織図で人間関係を把握し、
まず一人でも味方をつくろう

住谷菜槻さん
住谷菜槻さん
ウガンダ/野菜栽培/2021年度3次隊・茨城県出身

中学生の時に国際協力に興味を持ち、弘前大学農学生命科学部で農業を学ぶ。大学4年生の時に協力隊に応募し、コロナ禍の待機期間を経て、2022年にウガンダに赴任。帰国後は青年海外協力隊事務局海外業務第一課で中南米地域の国担当として勤務。


隊員が求められていない
配属先の状況に困惑
CPとの関係構築にも苦慮

「赴任して1年間は本当に苦しかった」と振り返るのは、2022年にウガンダのムコノ地域農業調査開発研究所に配属され、野菜栽培隊員として活動した住谷菜槻さん。大学時代に農業を学び、卒業後に協力隊に参加。要望調査票を読み込むことはもちろん、ウガンダOVの訓練所スタッフからウガンダの気候や農業事情などの情報を収集した上で現地に赴いたという。

「ところが赴任してすぐ、研究所の所長から、何しに来たの?と言われてしまって。要請内容を説明しても関心を持たれず、あれ、思っていたのと違うな、どうしたらいいのかなと心が折れそうになりました」

   元々の要請は、園芸作物の栽培技術の研究・普及や農家への技術指導だったが、要望調査票が出されてから時間がたっていたこともあって、担当者や配属先長が変わり配属先側もボランティアをどう扱っていいのか戸惑っているような状態だった。

「研究員の多くが修士号や博士号を持つ環境の中で、私は社会人経験も大学院の学位もない一介のボランティア。それに輪をかけて、赴任したばかりの頃は語学力にも自信がなかったこともあって、居心地の悪さを感じました。とりわけ悩んだのは、CPとの関係です。40代の部長クラスの方でしたが、自分の仕事が増えるから関わりたくないと思われてしまったのか、私が何か質問すると露骨に嫌な顔をされる状況が続きました」

農家向けに実施したワークショップ。配属先での人間関係がうまくいくにつれ、活動も本格的に動き始めた

農家向けに実施したワークショップ。配属先での人間関係がうまくいくにつれ、活動も本格的に動き始めた

   そんな中、住谷さんが試みたのは、配属先の組織を知ることだった。

「既存の組織図を入手してみると、自分が配属された園芸部門のほか、作物・果樹・畜産・水産・農産物加工といった各部門があり、30人ほどの正規の研究員が掲載されていました。そこで一人ひとりに挨拶して顔と名前を覚え、誰がどの立場で何をしているのかを把握することに努めました。非正規職員など、組織図には掲載されていない人たちもいたので、名前が載っていない人は自分で書き込んでオリジナルの組織図を完成させていきました」

   組織図は常に持ち歩き、都度誰が何をしているのかの確認や、情報の追加や修正をした。ひととおり組織の全体像を把握すると、自分の興味ある分野のキーパーソンに、「この分野に興味があるので機会があればミーティングに参加したい」などの希望を伝えるようにした。同時に、ランチはできるだけ研究所内の食堂で取るようにし、積極的に自身について知ってもらおうと努めた。

「配属先の同僚たちはシャイで、向こうから話しかけてくれることがあまりなかったので、自分から挨拶して自己紹介するようにしていました。まだまだ拙い英語でしたが、日本の食文化や日本とウガンダの違いなどの話題には興味を持ってもらえることが多かったですね」

   すると、その中で知り合った他部門の研究員が住谷さんのことを気にかけてくれて、相談に乗ってくれるようになった。CPとの関係性に悩んでいて、自分が思うように活動できない状況を話すと、「まずはウガンダの農業を勉強してみたら?」と、敷地内の農地で働く農業従事者たちと一緒に農作業をする機会を提供してくれた。英語が通じず、現地語のルガンダ語での会話もうまく続かなかったが、一緒に作業を続けていくうちに徐々に友情のようなものが芽生えていった。すると、住谷さん自身にも配属先にも変化が現れた。

「自分の興味や、やりたい活動を直ちに実現しようともがくよりも、まず現地のことを学ぼうとする姿勢が大事なのだと理解しました。研究所のオフィスからも私が農作業に励んでいる姿が見えていたのか、最初は無関心だった所長が何か困ったことはないかと気にかけてくれるようになったり、それまでは呼ばれなかった大きな会議に呼ばれるようになったりしたのは嬉しかったですね」

相手の反応に萎縮せず
積極的なコミュニケーションで
味方をつくっていこう

住谷さんの相談に乗ってくれて、実質的なCPとなった研究員

住谷さんの相談に乗ってくれて、実質的なCPとなった研究員

   その後、関係構築の難しかったCPが配属先を退職することになり、住谷さんは、相談に乗ってくれていた研究員を実質的なCPにして活動するようになった。現地NGOと共同で農家の技術指導や生計向上支援に取り組んだり、小学校を訪ねて学校菜園の運営や食育の授業を行ったりと、活動内容も広がっていった。

「赴任当初、CPの態度に萎縮してしまっていましたが、今考えると、遠慮し過ぎず自分からもっと積極的に話しかけていけばよかったと思います。そうすれば、苦しい期間をもっと短くできたかもしれないですし、語学力も鍛えられたのではないかと思います。いずれにせよ、自分から動いていけば、信頼できる人や助けてくれる人が必ず現れます。一人でも味方ができればそこから良い方向に向かっていくのではないでしょうか」


配属先

編集室のOVから一言

Text=秋山真由美 写真提供=住谷菜槻さん

知られざるストーリー