▶体育の授業が進まないのでカウンターパートに抗議したら
ケンカになってしまいました(体育/男性)
体育の授業を広めるために、県の教育事務所に配属されています。同僚と一緒に計画を立てて動いていますが、教育事務所のナンバー2であるカウンターパート(以下、CP)は、体育が専門外なためか、体育の普及に対して消極的です。
主要科目の遅れで、たびたび体育の授業がつぶれるので、会議の席でCPに異議を唱えたところ、ケンカになってしまいました。その後、煙たがられ、話を聞いてくれなくなってしまいました。
その後、煙たがられ、話を聞いてくれなくなってしまいました。
東京農工大学農学部卒業後、26歳で理数科教師隊員としてケニア西部の中等学校に赴任。帰国後、名古屋大学大学院で国際開発について学び、フィリピンの理数科教育改善を目的としたODAプロジェクトに派遣される。2001年、カンボジアの理数科教育改善プロジェクトに派遣された後、教育の質改善を目的とした教員研修プロジェクトに参画するためルワンダへ。50歳の時にルワンダで事故に遭い、車イス生活に。現在、カンボジア在住。著書に『超えてみようよ!境界線―アフリカ・アジア、そして車イスで考えた援助すること・されること』、ブログ『越境、ひっきりなし』。
▶人前で叱責するのは避けるべき。
怒る前に「観察力」と「質問力」を発揮して
問題の背景にあるものを広く知りましょう
異議を唱えることで、CPのプライドを傷つけてしまったのですね。人前で誰かを叱責することは、立場の上下にかかわらず避けるべきと強く思います。途上国は学歴やステータスが強く意識される階級社会が多く、特に地位の高い人たちのプライドは高い。植民地支配を経験している社会であればなおさらです。そういう失敗をしたら、まず同じく人前で謝ることです。
「怒り」で思いを伝えるのは、やはり未熟です。では、どうやって伝えればよかったのか。まず会議の席ではなく、会議の前か後にCPに話せばよかったのです。話をする前に、ぜひ一枚紙で自分の言いたいことを文章にして相手に渡してください。もちろんその手紙は現地語で。手紙はかなり効果的ですよ。現地語の勉強にもお薦めです。現地の人と話す時に限らず、対話には誤解がつきものです。でも紙に落とすことで、こちらも頭を整理してから話を切り出せるので、誤解が減らせます。
そもそもなぜ主要科目の遅れで体育の授業がつぶれるのでしょうか。もしかすると主要科目が国家試験に必要で、国家試験の結果で進路が左右されるのであれば、体育の授業がつぶれるのも仕方ないかもしれません。改善案の前に、問題の背景を広く知ることが大切です。
そのために必要なのが「観察力」と「質問力」です。赴任したばかりの頃は、嫌なことやおかしいと思うことは、たくさんあるでしょう。でも、それで彼らは今までやってきたわけです。隊員はしばらく様子を見て、何が起こっているか探りを入れる。これが観察力です。
一方、質問力は技術なので、獲得していけば、どんどんうまくなります。質問の仕方のポイントは、尋問しないこと。向かい合わせではなく、隣り合わせに座って、その国のNG質問に気をつけながら雑談交じりに聞きます。例えば、かつて民族対立で大虐殺があったルワンダでは、出生地を聞くことなどは避けるべき事柄でした。
キーワードは「安心」と「安全」です。安心と安全があるから、人は思ったことをしゃべってくれるし、質問に答えてくれます。安心と安全をつくるには、やはり「笑顔」は強いです。とにかくまずは「私はあなたの味方だ」という姿勢から始める。そして、何が起こっているか観察する、おしゃべりしながら質問する。観察と質問、最初はこの二つに徹するといいと思います。それに半年か1年ぐらいかけても決して長過ぎないと思います。改善案を提案するのはそれからです。それでもケンカになってしまったら、企画調査員(ボランティア事業)に間に入ってもらうのがいいでしょう。隊員一人で解決することが難しいケースもあります。
そうやって現地の人とだんだん仲良くなっていきますが、だからといって対等な関係を構築するのは難しい。現地の人たちと、日本での友達間と同じような対等性を求めることは、ちょっと無邪気過ぎるかもしれません。どうしたって経済的にフェアではないし、紛争などが起これば隊員は日本に帰国します。そういうよそ者の特権性を維持したまま対等性を求めるのは、支援者のエゴのような気がします。あるのは「相手を尊敬する」「相手の尊厳を断固として冒さない」、そういった対等性だけかもしれません。
とはいえ、現地の人と対等性が生まれたなら、それはとてもすてきなことです。実は隊員こそが、そういう友情を生み出せる環境に身を置いています。ですから、そこは遠慮なく友情を育ててほしいと思います。
どちらにせよ、それぞれのバックにある社会の不均等は理解しておきましょう。往々にして、経済や医療に関しては、あなたは圧倒的に有利なポジションにいます。一方で、派遣先の社会で、あなたはかなりの弱者です。言葉も拙いし、任地での暮らし方を自分のものにできていない。どこか孤独です。そういう時に偶然に生まれる友情の素晴らしさといったらないと思います。コツは、やっぱり心を開くことです。それこそ安心と安全です。親しい人に伝えたいことを表現し、相手の話したいことを聞くこと。それは日本でも派遣国でも同じです。
Text=池田純子 Edit=ホシカワミナコ 写真提供=村山哲也さん ※質問は現役隊員やOVから聞いた活動中の悩み