※人数は2023年4月末現在
PROFILE
高校生の頃から青年海外協力隊に興味を持ち、大学卒業後、介護福祉士として高齢者施設で2年半勤務した後、ワーキングホリデーでオーストラリアへ行き、高齢者介護士資格を取得。帰国後、約1年高齢者介護施設で働いた後、協力隊に参加。現在も高齢者介護施設に勤務。
配属先:カルタラ郡事務所高齢者対策事務局
要請内容:郡内の高齢者介護施設や老人会などを巡回し、体操指導やレクリエーションを通して、健康意識の向上を支援する活動を行うと共に、巡回先関係者や高齢者向けのワークショップを実施する。
PROFILE
姑の介護をきっかけに高齢者介護施設に転職。仕事の傍ら大学に編入し社会福祉主事の資格を取得。大学院修了後は地域包括支援センターに勤務。大学院で介護分野の技能実習生の調査をした際、ブラジルの日系高齢者の介護に興味を持ち、協力隊に応募。帰国後は日本語教師として在住外国人に日本語を教えるほか、食生活改善推進員などの活動を行う。
配属先:サンパウロ日伯援護協会
要請内容:協会の巡回診療や各県人会などで寝たきり予防の体操や在宅介護技術を紹介・普及する。協会運営の高齢者施設でスタッフへ介護技術を伝える。
アジアや中南米で急速に進む高齢化。日本が高齢化対策で培った知見や経験を伝えることは協力隊にも求められている。高齢者施設入所者の中・長期的支援計画の策定や介護レベルに応じた介助方法の指導、健康増進と余暇活動の充実のためのレクリエーション指導から、介護従事者や市民を対象にした高齢者の健康・介護に関する正しい知識や技術の紹介が期待されている。
岡澤めぐみさんはスリランカのカルタラ郡事務所に所属し、週に二つの福祉施設と月に三つの老人会を巡回し、介護予防などの体操と、心身の健康な生活への助言を行った。
スリランカでは60歳以上を高齢者としており、配属先は高齢者へのID作成、年金などの手続きと、若年層を含めた障害者に対する支援も行う部署。カウンターパート(以下、CP)は行政事務担当で岡澤さんと共に活動することはなかった。ただしCPのもとへは老人会担当者がIDを取りに来るため、岡澤さんは老人会の情報収集のために週に3日はオフィスで資料作りなどを行い、巡回先を探した。その際、同僚に資料をシンハラ語にしてもらうなどし、職場との交流も深めた。
糖尿病患者の多さが社会問題となっていたため、巡回した老人会では「ティータイムが一日に何度もありますが、一日を通して取る砂糖の量はティースプーン合計6杯までにしましょう」など、健康的な食事の取り方について毎回テーマを決め、クイズ形式などで伝えた。
一方、高齢者介護施設はまだ少なく、岡澤さんの巡回先の福祉施設では高齢者が若い障害者と共同生活をしていた。スリランカでは、他者に良い行いをすることで徳を積むことができるという仏教の教えがあり、「ダーネ(寄付)」やボランティアで運営されていた。そこでは、介護予防体操、脳トレと身体のリハビリになるレクリエーションを中心に行った。「音楽が好きな国民性なので、体操は日本の曲『上を向いて歩こう』など音楽を必ず使いました」。
活動2年目には福祉施設で音楽隊員を中心に有志15名を募って音楽イベントを企画。「椅子から立ち上がって踊る人もいるほど楽しんでくれました」。
任期が終わる頃、施設では入居者同士で体操を教え合うようになり、レクリエーションも自分たちで続けようとしていた。老人会で行ったアンケートにも「自宅で体操をするようになった」と多くの人が回答するまでになった。
カウンターパートは前任の隊員の活動が軌道に乗った後に異動してきた人で、隊員は一人で活動できるものと思い込んでおり、老人会の情報だけ渡され、土地勘も移動手段もなく、困惑しました。協力隊員をよく理解している大家さんに相談すると、一緒に自転車で出かけて老人会を探してくれました。大家さんの敷地内に住み、シンハラ語を覚えるためにも、初日から大家さんの家で夕食を食べさせてもらい、信頼関係ができていたのが良かったのかもしれません。
数字を書いた紙の上に、同じ数字のペットボトルのふたを探して置くゲームをする、施設入居者と岡澤さん
巡回先の老人会メンバーや施設の入居者にとって「なじみの顔」になれたことです。活動2年目に入る頃に、巡回先の人たちから「次はいつ来るの」と聞かれるようになりました。日本の高齢者施設で行っていた仕事内容とは異なるものの、通っていくうちに高齢者たちと仲良くなり、楽しく活動しながら関係性が構築されていくことは同じでした。また、高齢者も世界とつながる機会があるとすてきだなと思い、日本で勤めていた高齢者施設と手紙の交換ができたことも嬉しいことでした。
長谷川美津子さんは、日系人の福祉・医療事業を行うサンパウロ日伯援護協会で活動し、州内に60以上ある日系移住地への土日巡回診療に同行し、介護予防の講話と体操などを行った。
まずアンケートを行い移住地のニーズを把握。①9割近くの人が日本食を食べていること、②7割の人が何らかの病気を持っていること、③14%の人が健康維持・増進のために何も気をつけていないこと、④認知症を知らない人が約3割いること、などがわかった。
そこで食事に対しては栄養改善の話をした。また、巡回診療は健康診断の場でもあるため、体重などの推移を記録することが必要と考え、体脂肪率、内臓脂肪、筋肉率なども含めた身体測定や握力測定を導入し、一人ひとりに結果を説明し、筋肉率が低い人向けに手軽にできる体操の紹介もした。さらにブラジル社会で認知症が増え始めたタイミングでもあったため、長谷川さんは日本で講師を行っていた認知症サポーター養成講座(※)も開いた。
「移住地など日系社会では高齢者をみんなで見守っていて、認知症の症状も穏やかでした。認知症を正しく理解してもらえればコミュニティで支えられると思いました」。高齢者施設、大学、教会など20カ所以上で同講座を行い、522名のサポーターが誕生した。
介護保険制度がない国では、日本の介護方法をそのまま当てはめることはできない。その国の制度や状況を学び、それに合った介護方法や対応を考えていくことが必要とされる。
※認知症サポーター養成講座…認知症に対する正しい知識と理解を持ち、地域で認知症の人やその家族に対してできる範囲で手助けする「認知症サポーター」を全国で養成するための講座。(厚生労働省ホームページ)
巡回診療のない平日は近隣の四つの高齢者施設を巡回し、スタッフに介護方法のアドバイスなどをしましたが、各施設には日系社会青年海外協力隊員が配属されていたため、活動の邪魔はしたくありません。そこで、それまで行われていなかったおやつ作り療法を始めました。入居者と一緒に日本の軽食を作って日本を思い出してもらうもので、配属されている隊員や施設の栄養士と連携して行いました。最初の施設で栄養士がレシピをポルトガル語で作成してくれたので、他の施設でも活用しました。
巡回診療に集まる人たちに検査の待ち時間を利用して介護予防の体操を指導する長谷川さん
日系移住地への巡回診療は年に1回。前回会った方に「また会えたね」って言われるのが嬉しくて、次に行く前はウキウキして「去年のあの人元気かな」と写真を見たりしていました。前回、相談に乗った方が食生活を変えたり運動をしたりして健康になっていたり、とても仲良くなったおばあさんが「歳だから豆を栽培するのは終わりにするけれど、あなたにあげようと思って取っておいた」と豆を持ってきてくださったり。そうした日々がとても楽しかったです。
Text=工藤美和 Edit=ホシカワミナコ 写真提供=岡澤めぐみさん、長谷川美津子さん