帰国後、内定までの就職活動の方法を聞きました。
就職先:株式会社生態計画研究所
事業概要:生態環境の保全と環境教育の推進に関するプランニングと実践を専門領域とする。生物多様性に関わるコンサルティング、環境教育施設の管理運営、自治体での環境教育の実践・コンサルティングなどを行っている。
大学で野生動物の保護管理学を学び、野生動物や環境を保全する活動や、環境教育に携わりたいと考えていた松橋杏子さん。卒業後は、北海道中川町で野生動物の駆除・管理を行う地域おこし協力隊で活動した後、札幌市で自然史博物館の解説員を務め、興味を追求するための経験を積んでいった。
そんな時、JICAがノンフィクション作品『野生のエルザ』の舞台となったケニア・メルー国立公園の環境教育隊員を募集していることを知った。
国立公園の近くに暮らす周辺住民や子どもたちを対象とした環境教育と、同園の教育センターの博物館化に向けた展示の改良などが主な要請内容だった。
しかし、配属先のメルー国立公園は、首都からのアクセスが悪く、来園者は少なかった。外に出向いての環境教育は順調だったものの、博物館化のために展示の改良に励んでも利用者がいない状況だった。そこで、赴任直後から気になっていたごみ問題に取り組み、職員を巻き込んでごみ拾い活動を行った。
帰国後は、代替職員として環境省に入省。法律の解釈、法改正など、法律に関わる業務に携わる中で、改めて環境教育への思いを強くした。
「たとえ良い法律があったとしても、国民に、その法律が存在する意味を理解してもらわないと、ただの押しつけの法律になり、反発を生むだけ。自然の摂理を実際に目にして体で理解する体験を自然の中で提供したいと思うようになりました」
そんな松橋さんに、職場の同僚が教えてくれたのが株式会社生態計画研究所だった。松橋さんは、同社の「自然と自然をつなぐ、人と自然をつなぐ、人と人をつなぐ」という考えに共感し、すぐに採用試験に応募し就職を決めた。
現在は仕事と並行して、個人で「もぢゃの森」という活動名でSNSで情報を発信し、子どもたちに自然体験や環境教育のワークショップを行っている。
「これまでの経験を通じ、環境教育が自分の核であり、ライフワークだと確信しました。この分野で自分ができることを確立させたいと思っています」
松橋さんはメルー国立公園のスタッフたちと共に学校や地域に出向いて環境教育を行った
要請内容は、メルー国立公園が周辺住民や来場者向けに実施している環境教育のプログラムの改善と、園内にある教育センターの博物館化のための展示物の改良でした。
環境教育は前任者のごみ分解クイズを引き継ぐと共に、赴任前の技術補完研修で知った先輩隊員の手法をヒントに紙芝居を作り、学校や市場を巡回して、土に還るごみと還らないごみの違いを子どもたちや地域の方々に伝えました。
博物館化に関しては、園への来場者がとても少なく、センターのスタッフ間でも教育センターが博物館化するという情報共有が十分になされていない状況で、これを進めても園の役に立たないのではないかと考えました。
代わりに、園内のごみ問題に取り組むことにしました。公園は都市へのアクセスが悪いため、環境について学んだレンジャーだけでなく、自動車修理、電気工事など、さまざまな職種のスタッフたち約400人が暮らしています。園にごみ収集システムはなく、彼らは生ごみを一旦、家の裏穴に捨て、ごみが乾くのを待ってから燃やしていて、その間、野生のバブーン(ヒヒ)がごみを荒らすなど、動物の行動を変えてしまうという問題が起きていました。私は国立公園のスタッフとしての意識を変えてほしく思い、「毎週水曜日はごみ拾いの日」と決め、職員たちが集まる午前10時のチャイの時間を活用して、みんなでごみ拾いをしました。
帰国後、一般社団法人日本生態学会のメーリングリスト「Jeconet」で、環境省が育児休業の代替職員を募集していることを知り応募しました。自然環境局野生生物課に所属し、ワシントン条約で規制されている希少野生動植物の譲り渡しなどの許認可業務を担当しました。法律に関わる仕事をする中で、自然や環境を守るためには、ルール作りと共に草の根的な環境教育が必要という思いが強くなりました。そんな時に同僚が紹介してくれたのが、株式会社生態計画研究所でした。同社がガイドを派遣している千葉県の谷津干潟を見学に行き、話を聞いたところ、興味を持ちました。ホームページを見たところ、4月採用の募集があったので、応募することにしました。
提出した書類は履歴書と小論文です。履歴書の志望動機には、環境省での仕事を通じ、現場での環境教育の大切さを感じたということを書きました。また自己PRでは、これまで博物館や協力隊で環境教育に取り組んできたこと、またどんなところでも臨機応変に対応できることなどを書きました。
面接はZoomを通じて社長と行いました。質問を想定し志望動機などを準備して面接に臨みましたが、そうした質問は一切されませんでした。入社を前提に、どのような施設で働きたいのかなどを聞かれました。
現在は金川の森を探索しながら子どもたちに自然環境や生き物に興味を持ってもらう活動をしている
入社してすぐ、会社が管理運営している施設の一つ、「山梨県森林公園 金川の森」に派遣され、周辺市町村の子どもなどを対象に園内の森を探検しながら、自然の循環、生き物同士のつながりなどを伝える環境教育を行っています。同社では、企業や地方自治体の依頼を受けて、環境教育に関する講座やイベントの開催、地域の環境教育の人材育成なども行っています。将来的にはオフグリッド(※)の家を作り畑や森を管理し、そこをフィールドに森の循環や生き物同士のつながりを実際に目の当たりにできる場を作りたいと思っています。
※オフグリッド…電力・ガス・水道など、生活に必要なライフラインの一つ、または複数を公共のサービスに依存せず、独立して確保できるように設計された状態を指す。
帰国後研修を通して、私たちOVは社会で求められている応用力、適応力、コミュニケーション力などをかなり培われているのだと実感しました。協力隊のキャッチフレーズに「いつか世界を変える力になる」がありますが、それは本当だと思います。JOCV経験者は必ず世界を変える力を持っています。帰国後すぐは逆カルチャーショックでうまくいかないこともあるかもしれませんが、OVだからこそ感じることができる感覚なので、悲観する必要はありません。日本でも、海外でも、活躍する舞台はたくさんあります。自分の得意や経験を糧に活躍していきましょう。
Text=油科真弓 写真提供=松橋杏子さん