[特集]活動力をアップさせるヒントに!
協力隊で身につく19の力

CASE4

齋藤顕良さん
齋藤顕良さん
SV/マレーシア/電気・電子機器・設備/2019年度2次隊、2021年度7次隊・東京都出身

学校卒業後、写真フィルム会社に入社して20年、そのほとんどが工場勤務。オランダの工場への長期出張や駐在で計11年、オランダに在住。退職後もオランダに住みながら、ドイツ系企業の自動車部品工場、アメリカ系電子機器製造会社で働く。60歳を過ぎ、自分の中で会社員人生に一区切りついたところで、開発途上国で自分の技術を生かしたいとシニア海外協力隊員としてマレーシアのマラッカ州に赴任。現在、オランダ在住。

齋藤さんが身についたと感じる力

▶実行力   ▶計画力   ▶現場力   ▶へこたれない力


長年の海外工場勤務で培った力が
マレーシアの産業訓練校で強固に

マレーシアの産業訓練校で学生に指導する齋藤さん

マレーシアの産業訓練校で学生に指導する齋藤さん

   マレーシアのマラッカ州にある産業訓練校(ILP)のメカトロニクス科に配属され、メカトロニクス=機械関連、つまり工場の設備を動かす技術を教えることになりました。

   派遣はコロナ禍の前と後の2回にわたりました。コロナ禍前は、2019年12月から20年3月まで。最初の1カ月はクアラルンプールで語学研修があったため、任地は約2カ月のみと、活動らしい活動はできませんでした。その後、22年2月に晴れて2回目の派遣となり、そこから24年1月までの約2年間、活動を行いました。

   配属当初は、授業や実習を見学させてもらい、実態を把握した上で、活動内容を検討し、目標を「将来、生徒が工場技術者として必要な技能を習得すること。具体的にはPLC(プログラマブルロジックコントローラ)制御、油圧・空圧制御、モーター制御などの技術を着実に学べる指導を行う。そのためには、生徒だけでなく、教師にも講義と実習を行う」と設定しました。これらを実践したことによって、計画力実行力を培うことにつながったと思います。

   また、私自身の長年の工場勤務で蓄積した経験と知見を生徒や先生に伝達できたことは現場力の成果です。

   生徒に対して工夫したのは、講義だけでなく実習を取り入れたことです。例えばモーター起動実習では、実際に道具を使い、電流を測ることで、生徒は自ら考えて回答を導き出せるようになりました。思っていたより苦戦したのが、先生方に講義や実習を行うことです。忙しい先生方が多く、時折キャンセルされることもありましたが、続けたことで、へこたれない力が身につきました。

   へこたれない力は、ほかの人間関係でも鍛えられました。コロナ禍が明けて再赴任した際には、学校の体制から校長先生、カウンターパート(以下、CP)まですべてが変わっていました。しかも新しいCPの女性は、CPとしての仕事が増えたことが不満だったようで、「とにかく忙しい、忙しい」と言われて、コミュニケーションが全く取れませんでした。

   ただし、そんな中でも活動は進めなければいけないので、JICAの企画調査員(ボランティア事業)やCPの上司なども交えて話し合いの場を設け、今後、具体的にどうしたらいいかを皆で決めていきました。一対一で話してもらちがあかない時は、関係者全員で話し合うことが有効だとつくづく思いました。私のほうから関係者に相談し、そういった話し合いの場を設けてもらったことは、へこたれない力につながったように思えます。

モーター制御クラスの実習の様子

モーター制御クラスの実習の様子

   ただ一つ残念なことがありました。日本の技術専門校との連携がうまくいかなかったことです。私は日本の技術専門校とコミュニケーションできたら、お互いに刺激になると考え、ある専門校の担当者とやりとりをしていましたが、授業や学校行事の多忙さ、価値観の違いから計画が頓挫してしまいました。

   とはいえ、ILPの生徒や先生には自分の持っている技術を伝えることができましたし、一部の生徒とはいろいろな話をして、心を通わせることができてよかったと思います。

   とにかく先進国しか知らなかった私にとって開発途上国、特にイスラム文化圏は驚きの連続でした。朝は5時半頃にモスクから流れる大音響(アザーンと呼ばれる礼拝の合図)が目覚まし代わりでした。1日に5回お祈りするので、先生との打ち合わせも「お祈りの後にしてくれ」と言われたこともあります。年に一度のラマダンの時は、約1カ月間、日の出から日没まで断食するので、周りの飲食店はすべて閉鎖してしまい、自宅から電気ポットやお茶、サンドイッチを持参し、個室で食べました。

   イスラム文化には衝撃を受けましたが、住んでいた村の雰囲気は、昭和の良き時代の日本そのもの。夕方、家の周りを散歩していると、近所の人が気さくに話しかけてくれたり、家の前でパーティしているところに招かれたりと、地域に密着できたことは、よかったと思います。

   任期満了後はオランダでのんびり過ごしていますが、いずれ日本に戻った時には、長年の海外経験と隊員活動で得た力を生かして、訪日外国人の助けになるような仕事ができたらと思っています。シニア層もどんどん海外に出て、いろいろな経験をすることをお薦めします。「日本の常識は世界の非常識」といわれることがありますが、実際に体験すると人生観が変わりますよ。

現役隊員へのアドバイス

外国で快適に暮らすコツ

「住めば都」といわれるように、どこの国に行っても、ある程度生活基盤ができれば、前向きに暮らしていけます。私もマレーシアは初めての開発途上国でしたが、生活と活動に慣れたら、モチベーションを途切らすことなく、最後まで楽しく続けることができました。地域に積極的に関わり、近所の人と仲良くなるのもポイントだと思います。積極的に自分から輪に入っていくとよいでしょう。


齋藤さんのやりがいグラフ
派遣中のやりがいを10段階で表してもらいました

齋藤さんのやりがいグラフ

Text=池田純子 写真提供=齋藤顕良さん

知られざるストーリー