失敗に学ぶ
~専門家に聞きました!   現地で役立つ人間関係のコツ

今月のテーマ:言葉の意味が理解されていなかった

今月のお悩み

▶「生ごみ」とは何のことか住民がわかっていないのに
ごみの分別を勧めていました(環境教育/女性)

   地域を巡回し、住民にごみの分別ルールを教えるワークショップを開いていました。

   ごみは「生ごみ」「リサイクル資源」「その他のごみ」に分けて、「その他のごみ」だけを捨てるように伝えてきましたが、ほとんどの受講者の意識は一向に改善されず、生ごみも交ざったままで捨てられていました。

   ある時、住民の中に、ぽかんとした表情で説明を聞いている人がいるのを見つけたので声をかけると、「生ごみとは何のことか」がわかっていなかったことが発覚。何のためにワークショップを開いていたのかと落ち込んでしまいました。

今月の教える人

稲葉久之さん
稲葉久之さん
(セネガル/村落開発普及員/2004年度3次隊、ブルキナファソ/村落開発普及員/2008年度9次隊、2009年度9次隊・大阪府出身)

フリーランス・ファシリテーター。JICA海外協力隊環境教育職種課題別派遣前訓練講師。愛知淑徳大学、金城学院大学、日本福祉大学、南山大学の非常勤講師。特定非営利活動法人アイキャン理事。学生時代に国際開発学を学び、卒業後、出版社などの勤務を経て、協力隊に参加。帰国後はJICAの国内研修のコーディネーターを務めた後、2008年から大学院でファシリテーションを学ぶ傍ら、協力隊の短期ボランティアにも参加。大学院修了後は自治体のまちづくりなどに携わるようになり、17年にフリーランスのファシリテーターとして独立した。

稲葉先生からのアドバイス

▶住民とは生まれ育った境遇も文化も違う。
まずは根気よくイメージや概念を共有しましょう

   村落開発普及員(現コミュニティ開発)隊員としてセネガルに派遣された私も、派遣当初、同じ悔しい気持ちになりました。ただ、2年間活動してわかったことがあります。相談者さんのこの状況は、相手にこちらの意図が伝わっていないだけという可能性が大いにあります。

   これをやってほしい、などと日本語をそのまま翻訳すれば現地の人々に伝わるわけではありません。生まれ育った境遇も文化も違うわけですから、イメージや概念を丁寧に説明する必要があります。写真で見せる、やってみせる、あるいはまず相手がどう認識しているかを聞き取り、こちらが意図しているものと違うなら「そうではなくこうだ」と伝えて、イメージを擦り合わせていかなくてはならないと思います。相手がどんな経験をしてきたかを理解し、関わり方や伝え方を考える必要もあります。

   例えば、私は人口約100人の村で、お母さんたちにビーズアクセサリーを作るワークショップを行いました。村に学校はなく、6割いる子どもたちのほぼ全員が学校に通っていない村で、子どもたちのお母さんも就学経験がありませんでした。

   そうなると、村の人々には、私たち日本人が学校生活で身につけてきた、「先生に教わる」「黙って聞く」「落ち着いて座って考えながら作業する」といった経験自体がありません。

   ワークショップでは、「始めに私が説明する作り方を聞いて、一緒に少しずつやってみて、理解してから一人で作ってみましょう」と伝えたにもかかわらず、お母さんたちは最初から大騒ぎ。説明を聞かずに勝手に始めてわからなくなると、矢継ぎ早に質問をする、失敗したから新しい材料をよこせと主張する。15人の参加者全員がそんな状態で、初めてのワークショップは失敗に終わりました。

   今振り返れば、こうした方々を対象にワークショップを開くなら、最初に説明をする時間をきちんととり、その後に道具を配って作業をするなど、一つひとつのステップを分けて行うべきだったと思います。

   ちなみに、ビーズアクセサリーのメリットは、失敗したり、売れ残ったりした時に、糸を切ってしまえばやり直しがきくところです。例えばこれが染色で失敗した場合、染料も染めた布も無駄になることに比べると、被害は少ないと思います。

   作った後の販売でも問題が見つかりました。生活に必要なものは作ったり、自然にあるものを利用してきた村の人たちにとって、貨幣経済は大人になってから直面した新しい社会の仕組みです。だから材料費、人件費、輸送費などを加味して販売価格を決めて売る、といった感覚がなく、コストが100円かかっているのに「50円で売れた!」と喜ぶ人、グループで購入したビーズなのに、ビーズが欲しい人にタダであげてしまう人もいました。当然、材料や在庫の管理も経験がありません。さらに村の人たちが話すウォロフ語には元々文字がなく、帳簿などを記録することができる人が村にいなかったことも問題でした。

   他の村でマラリアの啓発活動を行った際も、「今日、学んだことを絵に描いて、ほかの方にも伝えましょう」と促したところ、お母さんたちはクレヨンを持ったまま固まってしまいました。絵を描くという経験がなく、教えられたことを頭の中でイメージ・整理して、理解することが難しかったからです。

   幸いセネガルの村のたくましいお母さんたちは、その時思ったことをはっきり伝えてきてくれたので、私も思い切りこちらの気持ちを伝えて、ギャップを埋めていくことができました。ビーズアクセサリー作りの村では貨幣経済を体感するワークショップを開くなど、一つ一つの課題を解決する方法を模索しました。数年後に村を訪れた時、「こんなこともできるようになった」と言って自分が作ったアクセサリーを見せてくれる人もいて、少しずつでも、村の人とお互いのギャップを理解し合う協働したプロセスが大事だと実感しました。隊員の皆さんには、自分のやり方、伝え方に配慮が足りていないものがあるのではないか?と問いかけながら、諦めないで働きかけていってほしいと思います。

Text=ホシカワミナコ 写真提供=稲葉久之さん  ※質問は現役隊員やOVから聞いた活動中の悩み

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