この職種の先輩隊員に注目!   ~現場で見つけた仕事図鑑

幼児教育

  • 分類:人的資源
  • 派遣中:20人(累計:939人)
  • 類似職種:青少年活動、小学校教育

※人数は2024年6月30日現在

CASE1

橋本千鶴さん

25の保育園を巡回。保育士に
「遊びを通した学び」の実践を伝える

橋本千鶴さん
エジプト/2019年度2次隊、2022年度7次隊・神奈川県出身

PROFILE
短大保育科の恩師が協力隊のシリアOVだったことから協力隊を志す。保育士として東京都内の保育園に5年勤務後、都職員として協力隊に現職参加。コロナ禍により派遣から3カ月で帰国し、復職。2022年6月に同じ配属先に再赴任し、24年7月まで活動した。

配属先:社会連帯省ポートサイド支局家族・子供部

要請内容:「遊びを通した学び」の普及や保育士の育成を図り、地域の保育の質を底上げすることに寄与する。JICAの「就学前の教育と保育の質向上」プロジェクトが実施されており、その効果を持続・発展させることも期待される。

CASE2

仁科潤紀さん

日本の保育の普及から、絵本寄贈、遊具建設、
劇による衛生教育まで幅広く活動

仁科潤紀さん
ブルキナファソ/2017年度2次隊・静岡県出身

PROFILE
静岡県内の保育園に保育士として5年勤務した後、協力隊に参加。ブルキナファソでは政情悪化に伴い任期3カ月を残して活動終了。現在、静岡県内の保育園に勤務する傍ら、「いわとじゅん」名義で絵本を作り、途上国の子どもたちに届けるプロジェクトも行う。

配属先:カディオゴ県事務所

要請内容:首都近郊の小都市の公立幼稚園を拠点に、子ども中心の教育が実現できるよう、保育の現場に子どもの発達段階に応じた保育や遊びを通した能動的な学びを定着させ、子どもが楽しみながら学べる教材や活動の開発・普及を図る。

   幼児教育隊員の多くが地方の教育事務所に配属され、幼児教育の質の向上のため、日本の幼児教育の特色でもある「遊びを通した学び」を推進する。幼稚園や保育園を巡回し、活動改善、教材作成、セミナーの開催などに取り組む。教員養成学校での学生への指導が求められる要請もある。

CASE1

待機中も活発に活動しモチベ維持
派遣中は意識改革の難しさに悩む

   エジプト派遣から約3カ月でコロナ禍による一時帰国となった橋本千鶴さん。2年3カ月にわたる待機中は各国の子どもに関わる隊員有志と教材研究分科会を立ち上げ、エジプトの保育士向けに知育玩具、遊び、食育などの資料をまとめ、アラビア語の字幕や説明をつけてSNSで発信した。OV会「JICA海外協力隊幼児教育ネットワーク」のオンライン勉強会にも積極的に参加するなど、モチベーションを保ち続けた。

   再赴任後は25の保育園を巡回し、遊びを通した学びの普及活動を行った。保育士たちは、保育園は読み書きの基礎とコーランを学ぶ場と捉えて育ったため、幼児の発達に遊びを通した学びが必要という意識をなかなか持ってくれなかった。橋本さんは、文字、言葉、数字などエジプトの保育園教育に近い「勉強に直結する遊び」ならば受け入れられやすいことに気づき、園にある教材を活用したカルタ遊びや段ボールで作ったパズルなどを提案した。また、半年に1度、他の幼児教育隊員と連携し、保育士向けのセミナーも企画・開催した。日本の保育園紹介、教材作り、運動遊び、手遊び、歌など毎回テーマを設定し、幼児教育職種の技術顧問からオンラインでアドバイスをもらう工夫もした。毎回、約50人が参加し、保育士同士の交流にもつながった。

   橋本さんの熱心な取り組みに応える保育士が増えたが、「園で子どもが何もしていない時間をすべて遊びの時間に変える」という高い目標を抱いていた橋本さんは手応えを感じられず落ち込んだ。「JICAのプロジェクトに関わるエジプト人スタッフから『あなたと遊んだ子が、家に帰って、楽しかったと言ってくれればそれでいい』と言われて、幼児教育はすぐに目に見える結果を求めるべきでないとわかり、心が楽になりました」。

橋本千鶴さん

最大のピンチ(任期終盤)

カウンターパートはポートサイド支局家族・子供部で管轄下の全保育園の管理を担当していました。以前から幼児教育隊員を受け入れていたため活動にも理解があり、かつ日本での研修も受け、保育の質の向上にも積極的に取り組んできた人です。私を信頼してくれ、私も常に巡回先の園の状況について相談していたので、今年1月に彼女が入院し2カ月ほど不在になった時は、「私は誰に活動について相談すればいいのだろう」と不安になりました。


最高のやりがい(任期終盤)

巡回先の園で子どもたちと過ごす橋本さん。「ご飯とトイレ、勉強以外は、子どもたちは何もせず座って待っているだけという保育園が多くて、『いろんな経験をさせてあげよう』と先生たちに働きかけました」

巡回先の園で子どもたちと過ごす橋本さん。「ご飯とトイレ、勉強以外は、子どもたちは何もせず座って待っているだけという保育園が多くて、『いろんな経験をさせてあげよう』と先生たちに働きかけました」

活動の終盤頃、巡回先の先生の一人が私に、「次にどんな遊びをしたらいいか」「どんなおもちゃを作ったらいいか」と保育について一生懸命に質問をしてきたんです。「あなたはもうすぐ帰っちゃうから今のうちに聞いておかないと」と言ってくれました。活動当初は「子どもと遊びに来た人」として扱われていたのに、2年たって、私のことを専門的知識を持った人として受け止めてくれていると感じることができて嬉しかったです。





CASE2

体罰を巡り同僚と対立するも
持続性のある遊具を残す

   仁科潤紀さんは、ブルキナファソ首都近郊の小さな市の公立幼稚園に新規派遣され、その園を拠点に近隣の私立園も巡回した。

   任地では幼児教育は小学校入学の準備期間という認識が強く、子どもを席に座らせて公用語のフランス語を教えることが中心だった。仁科さんは、遊びを通してフランス語を楽しく学べることを伝えたが、保育士は必要最小限の授業しかしようとせず、法律で禁止されている子どもへの体罰も目に余った。仁科さんは職員会議でやめるよう何度も働きかけ、園長も指導したが、体罰は変わらなかった。

「目の前の子どもたちへの暴力を止められなかったら、活動の意味がない」。覚悟を決めた仁科さんは、園を管轄する国民教育・識字省に伝えて注意してもらうことにした。結果、体罰はなくなったが同僚たちとの関係は悪化。 

   そこで仁科さんは活動に興味を示してくれていた私立園を巡回指導しながら、他の隊員と連携し小学校や幼稚園で劇による衛生教育を行ったほか、日本から届けられた絵本の寄贈を行った。

   一方、拠点園には嫌われているのは承知で折を見て挨拶だけはしに行った。同僚たちが、子どもが滑り台やブランコなど外の遊具で遊ぶ間はちゃんと補助をする姿を見て、鉄棒や雲梯、のぼり棒といった挑戦できる遊具の設置を思い立つ。関係が修復されたタイミングで園と相談して建設を決め、情報を集めて自ら図面を引き、業者と調整して完成させた。「3カ月を残して帰国となりましたが、遊具の研修を行い、設計図や教本を残し、園長会で他の園にも伝えてもらうよう約束しました」。

仁科潤紀さん

最大のピンチ(任期序盤)

体罰について管轄省庁に訴えた時、同僚たちとの関係が壊れることは覚悟していましたが、小さなコミュニティなので職場だけでなく任地の飲み仲間からも「村八分」にされて精神的につらかったです。同僚とはそれまで仕事中に意見がぶつかっても就業後には仲良く飲みに行っていましたし、彼らを通じて任地の人たちが私によくしてくれました。関係悪化後も折を見て園に顔は出しに行き、国民教育・識字省からのフォローもあったことで徐々に関係が戻り、帰国時は送別会を開いてくれるまでになりました。

最高のやりがい(任期終盤)

日本から送られた絵本を手にして喜ぶ子どもたち。「任地の子どもたちにとって初めて手にする絵本です。読み聞かせも聞き入ってくれました」

日本から送られた絵本を手にして喜ぶ子どもたち。「任地の子どもたちにとって初めて手にする絵本です。読み聞かせも聞き入ってくれました」

「絵本で繋ぐ、心と心」と名付けたプロジェクトが成功したことです。日本の元勤務先の同僚や保護者の協力で集めた150冊の絵本にフランス語訳をつけ、13校、1,185名の子どもたちに贈りました。本には贈り主の写真とその本を選んだ理由を添えて「こんな人がこんな思いで絵本をくれた」と感じてもらえるようにし、先生たちに読み聞かせの研修を行ってから渡しました。その後、絵本を通じてオンラインでブルキナファソと日本の子どもたちの交流が実現した時には感激しました。



Text=工藤美和 Edit=ホシカワミナコ 写真提供=橋本千鶴さん、仁科潤紀さん

知られざるストーリー