フリーランスの林業家として
地域の森林管理に貢献

上村 岳さん

ボリビア/青少年活動/2015年度3次隊・熊本県出身

上村 岳さん

未経験から飛び込んだ林業界
地域の山林を守り、人のつながりを広げていきたい

上村 岳さん
隊員時代、配属先で図工などの創作活動の指導にあたる上村さん

   全国有数の林業県、熊本でフリーランスの林業家として働く上村 岳さん。熊本市から車で約30分、豊かな自然に恵まれた御船町を拠点に連日山へ入り、植樹や木々の手入れにいそしんでいる。

   出身は熊本県熊本市。県内の大学で社会福祉学を学び、卒業後はリハビリテーション病院の医療事務の仕事を経て、知人の誘いで教育系のNPOに転職。子どもたちの自然体験学習のサポートなどに携わった。

   上村さんが国際協力に関心を持ったのは大学3年生の時。紛争で傷ついた子どもを支援するドイツ国際平和村の活動を知り、自分にも何かできないかと教授に相談すると「協力隊がある」と教えられ、在学中に応募した。当時は不合格だったが、NPOで子どもたちと接する中でかつての思いが再燃し、15年越しに再挑戦。合格してボリビアの主要都市の一つ、サンタクルス市に派遣された。

   米国系NGOが運営する公民館施設の学童保育に従事し、学校帰りに来所する子どもたちの宿題を見たりパソコンやレクリエーション・スポーツを教えるなど、人手不足の施設を支えた上村さん。館内は当初ごみだらけで、ごみを拾ったり廃材で工作をしたり、モノを大切にする心を伝えようと努めた。

派遣から始まる未来 先輩たちの社会還元
下草刈りの様子。主として、春には植林、夏にかけて草刈り、秋から翌春にかけて間伐や植林の仕事がある

   他方、赴任直後の2016年4月、「平成28年熊本地震」が発生。甚大な被害が出る中、上村さんは故郷を心配しながら「任期終了後は熊本の復興に携わろう」と決めた。帰国後すぐに受けた熊本市役所の採用試験は準備期間が足りずに不合格だったが、「復興に関わる場は役所だけではないはず」と目先を変えた19年、ちょうど熊本県で「くまもと林業大学校」が開校した。

   都道府県の条例で設置される林業大学校は、林業の人手不足を背景に、全国各地で開校されている。「自然体験学習などの経験から1次産業への関心もあり、その時期の開校を運命のように感じました」と上村さん。

   山林は、木材を生産するだけでなく、豊かな水を蓄え、山崩れなどを防ぎ、地域の暮らしを守る重要な役割を果たす。熊本地震でも県内の野山に被害が出ていた上、当時相次いでいた水害の原因として山の整備不足も指摘されており、上村さんは「林業の担い手になることで、熊本の復興に貢献しよう」と考えた。くまもと林業大学校の第1期生として入学し、1年間でチェーンソーの操作や作業車両の運転、森林調査の方法など基礎から専門的な技術までしっかり学んだ。

派遣から始まる未来 先輩たちの社会還元
徳島県青年海外協力協会が主催するサマーキャンプ。震災被害のあった福島県と熊本県の高校生を集めた交流イベントで、上村さんも2023年から引率者として参加している

   そして在学中、地域で「自伐型林業」に取り組む“師匠”にも出会えた。自伐型林業とは個人レベルの小規模経営による林業の形態で、対象区画の木をすべて切らず、適切に間引く「間伐」で残った木の生育を促して林業を続ける手法だ。大型の機材も太い林道も用いず、林業での採算性と環境保全を両立させる考え方である。林業大学校の卒業を控え「師匠の下で働きたい」と願い出た上村さんだったが、「働き方がいろいろある時代、自分一人で挑戦してはどうか」という師匠の言葉に、現在の道を選んだ。

   主な仕事は、山主や森林組合などからの委託で植林や下草刈りを行う「造林」。最初は森林組合などに営業をかけて、小さな仕事から始めた。「自分が植林した場所は、翌年以降に草刈りなどの管理を任せてもらえることが多いです。しっかり仕事をこなして信頼を積み重ね、やっと仕事が増えて生活が安定してきました」。

   山での作業は危険もあり、最近は同じ林業大学校を出たフリーの林業家たちと組んで活動している。隊員時代から心がけてきた“人とのつながりを重んじる”姿勢の下、新しい道を着実に切り開いてきた上村さん。「まだまだこれからですが、植林した苗が育っている姿を見ると山を育てている実感が湧きます」と語る。

   現在は仕事の傍ら、OVとして出前講座で話したり、徳島県でのサマーキャンプに参加するなど、子どもたちと関わる取り組みも続けている。「私の仕事に興味を持ってもらえれば、後継者不足が続く林業界のためにも、子どもたちの情操教育のためにもなるはずです」。

   今後は林業に携わる各地のOVたちとつながり、地域ごとの課題などを共有して新たな活動のアイデアも模索したい考えだ。青少年活動、協力隊、林業と、経験を生かしながら、上村さんの展望はさらに広がっている。

上村さんの歩み

Text=新海美保 写真提供=上村 岳さん