今月のお悩み現地の生徒も教員も言うことを聞いてくれず
派遣期間内に成果を上げられるか不安です
(アフリカ/体育)

   体育隊員として小学校に赴任して約1年がたちます。生徒たちに体育の楽しさを教えながら、運動能力をつけさせること、同僚の教員には指導法を伝えることを活動目標に設定しました。ところが、生徒たちは体育の授業を自由時間と思っていて、勝手にボール遊びを始める子もいます。教員も、生徒に指導せずおしゃべりしていたり、授業を私に任せてどこかに行ってしまったりします。これでは学校のカリキュラムに沿った年間計画が達成できず、私が立てた活動目標を残りの任期で成し遂げる自信がありません。

徳永先生からのアドバイス現地の方々との“時間軸”の違いを理解して
2年間で成果を上げようと焦らないことが大事

   私の教え子で隊員として行った人からも、「現地の人がなかなか行動を変えてくれず思うように活動が進まない」という相談を受けることがあります。現地の方々と理解し合うためには、相手の視点で物事を見ることが必要だと思います。

   大きな視点の違いとしては“時間軸”があります。現地の方々は、その地域の習慣や文化の中で何十年も生きてきて、今後も生活が続いていくでしょう。一方、隊員には2年間という期限がある。そのため、「任期中に活動を完結して成果を上げる」という時間軸で考えがちです。隊員は、報告会や隊員同士の会合、首都などでの健康診断や各種手続き…と結構忙しく、のんびりしている場合ではない。なのに現地の方々は行動が遅い、と焦るのもわかります。

   それでも成果にとらわれて焦らないよう心がけることが大事です。例えば私がコンサルタントとして海外で仕事をする場合、短ければ2週間、長くても数カ月程度の滞在でプロとしての結果を出さなくてはなりません。でも、隊員はその点、もっと自由に考えてほしいです。配属先によっては、前任の隊員がいて、自分が帰国した後も後任がいる場合もあり、自分は協力隊活動の長い流れの中の一部と考えることもできます。そうでない場合でも、現地の方々が、隊員の帰国後も続けられるような種をまいておくという考え方もよいでしょう。

   かく言う私も隊員時代は成果を上げようと一生懸命でした。タンザニアで大きな道路を建設するプロジェクトの一環で、資機材管理部門に関わったのですが、元々必要な材料の入手が困難な上、手に入れた物の管理方法が定着していない。さらにアフリカの人々はのんびりした人が多い傾向がある。資機材の乏しさとアフリカ人気質を考えると難しい仕事でした。でも、もし優れた資材管理の手法を伝えられれば今後も引き継がれるはずだと思い、活動に取り組みました。

   隊員は成果を求めて短距離走の選手のように突っ走りがちですが、現地の方々はマラソンのような持久走でゆっくり走っています。いつかは両者のリズム感がぴったり合い、心地よく共に走れるよう、まずはお互いの信頼関係を築くことが大切です。

今月の先生
徳永 達己さん
徳永 達己さん

タンザニア/在庫管理/1985年度1次隊・神奈川県出身

拓殖大学商学部卒、東京海洋大学大学院修了。協力隊に参加した後、(株)エイト日本技術開発所属の開発コンサルタントとして社会基盤整備に関する国際協カプロジェクトに携わる。2015年より拓殖大学国際学部教授、20年より学部長。教え子と共に山梨県富士川町におけるまちづくり活動も進める。


Text=三澤一孔 Photo=阿部純一(本誌)