大きなイベントを通じた協働

新井敦子さん

ウガンダ/体育/2019年度2次隊、2022年度9次隊・群馬県出身

小学校時代からサッカーに打ち込み、進学先の早稲田大学でも強豪で知られる女子サッカー部に所属。ワーキングホリデーで勤務したシンガポールの企業のCSR活動で、カンボジアの孤児院でサッカーを教えることを経験し、協力隊を志した。現在、群馬県内の小学校にて教員を務めている。

新井敦子さん

JICA事務所らによる女子サッカー大会に参加
普段の活動では得難い経験を積む

協働で活動を充実させる
TICAD CUP の前日練習で指導に当たった新井さん

   コロナ禍で派遣先のウガンダからの一時帰国を余儀なくされていた新井さん。2年を経て再派遣が決まったタイミングで、JICAウガンダ事務所から近々開催する「TICAD CUP 2022」を隊員として手伝ってほしいとの要請を受けた。これは「サッカーを通した平和構築」をテーマにした女子サッカー大会で、南スーダンなどから流入した難民とそのホストコミュニティの住民による合同チームも参加することが予定されていた。ウガンダ事務所が、ウガンダサッカー連盟(以下、FUFA)ら各種団体と共催する企画だった。

   新井さんがウガンダのジンジャ県に再赴任したのが2022年5月。8月のTICAD CUP開催に向けて事務所はすでに動き始めており、ウガンダのプロサッカー選手たちが所属するFUFAとの事前ミーティングにも、新井さんは同席することができた。施設とスタッフの確保、グラウンドの状態確認、食事やけが人対応の手配など、分担するべきことは山ほどある。
「ミーティングが任地で行われたこともあって、企画調査員(ボランティア事業)から呼んでいただき、JICAスタッフと現地団体の人々とのやりとりの現場を見ることができました。何でも日本側でやってあげるという姿勢ではなく、『ここまではJICAがやるから、これはそちらで負担してください』と、にこやかに、でもハッキリとウガンダ側に伝えていたのが印象的で、その後に活動で任地の人に接するためにもよい学びになりました」

   大会の運営は、ウガンダのプロサッカークラブ「SOLTILO Bright Stars FC」が担当。手伝いに参加した新井さんたち有志の協力隊員たちは、難民居住区チームを対象としたサッカー教室での事前練習を手伝ったり、選手同士の交流の場として日本文化紹介ブースを設けたりした。

「教育関連職種の隊員が中心となって、浴衣の着つけや空手の演武を行いました。大会に出場するウガンダ人の女の子たちは浴衣を着て写真を撮って盛り上がっていました。キレイなものが好きなのはどの国の女の子も同じですね」

   新井さんが大会を通して鮮烈な印象を受けたのは難民居住区チームの成長だった。

「他に参加していた5チームはウガンダ国内でも強豪の女子学生サッカーチームです。ただ、難民とホストコミュニティの人たちは試合を重ねるごとに強くなり、最終的には1勝を果たしたんです。会場全体が感動に包まれました」

   難民居住区はウガンダの中でも住みづらい乾燥地帯にあり、地域に住むウガンダ人のホストコミュニティには貧しい世帯が多い。他方で、海外から流入してきた難民は国際的な支援を受けて豊かに見え、互いに母語も違うため、難民居住区とホストコミュニティのいさかいが起きがちな状況があるという。それだけに、「あえて混成チームで行った試合はとても盛り上がって、言語や民族を超えられるスポーツの力を感じました」。

   JICA事務所や協力隊員、FUFA、SOLTILOに加え、難民居住区に関わっているサッカー団体やUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)も含めてさまざまな組織・団体の協力の下で実現したイベントを目の当たりにして、新井さんは再認識したことがあった。

「日本にいると自力で何でもできなくてはいけないと思いがちですが、例えば日本文化紹介一つ取っても、着付けのできる隊員に任せれば、私自身にスキルがなくても大丈夫です。できないことは得意な人や団体にお願いすればいいのだと学びました」

   自分のできることは一生懸命にやりつつ、できないことは積極的に周囲に協力を仰ぐ。異国でボランティア活動する協力隊員にはそんな姿勢が特に必要なのかもしれない。

大会がなければ接点のなかった
難民たちに向けた活動

協働で活動を充実させる
難民・ホストコミュニティチームとの集合写真

   難民居住区ではボールなどのサッカー用品が不足していて十分な練習を行えていない実情も知った新井さん。

   任地に戻って配属先のジンジャ中高等学校で活動する中で、JICAの「世界の笑顔のために」プログラムを通して日本のWEリーグ所属のアルビレックス新潟レディースからユニフォームやボールなどの寄贈を受ける機会を得た。

   そこで新井さんは、その一部を難民居住区にも届けることを思い立った。JICA事務所の後押しもあり、寄贈品を届けると同時にサッカーイベントも開催。居住区に住む難民の子どもたちに向けてSOLTILOの選手やコーチによるサッカー教室を催し、新井さんを含む協力隊員などの日本人も参加。その後、女子参加者をチームに分けて練習試合を行った。

「TICAD CUPへの関わりがなければ、それほど難民問題に関心を持つことはなかったでしょう。実際に難民居住区を訪問したことで、教育機会を得られない子どもや親なし世帯の課題を目の当たりにした一方、そんな環境でも将来への希望を持って笑っている子どもたちの強さも感じました。普通に任地で活動している時にはできない経験をさせてもらえたと思います」

現役隊員の“協働”②

専門家の研修会に
隊員グループで参加しました

協働で活動を充実させる

江藤千鶴さん

マラウイ/小学校教育/2023年度1次隊・福岡県出身

協働で活動を充実させる
身体測定の記録をグラフに書き込む実習。不慣れな参加者をサポートする隊員たち

   今年9月、私たち教育系・医療系など複数の分野にまたがる隊員17人で、草の根協力プロジェクトの「マラウイ農村部における就学前教育アクセスの向上と質の改善」で行われた研修会に参加させてもらいました。

   きっかけは、一時休止していた教育分科会を4月に復活させたこと。その際にJICAマラウイ事務所で教育分野を担当している職員から、技術協力プロジェクトなどで関心のあるものがあれば、関係者への紹介などができるとの声がけがあったためです。分科会内での相談の結果、見学希望の声が挙がったものの一つが上記のプロジェクトで、マラウイOVでもある谷口京子さん(理数科教師/2006年度2次隊)が准教授を務める広島大学の研究室が実施団体でした。

   地域保育センターで活動する人や地域の小学校教員に向けて就学前教育について実践形式で教える研修だったこともあり、「分科会以外の隊員も誘ってはどうか」との案がメンバーから出て、谷口さんの許諾を得て隊員間に声がけを実施。会以外からも希望者が多く集まりました。当日は3歳~5歳の子どもの発達段階と発達に応じた教育について学んだり、正しい手洗い・歯磨き・身体測定の仕方を確認したりする研修がありました。私たち隊員も手洗いなどの見本を見せたり、話し合いに加わったりして一緒に活動させてもらいました。

   私自身は小学校教育隊員なので、就学前教育の知識が活動に直結するかどうかわかりませんが、今まで詳しくなかった分野を学べたのは新しい引き出しになったと思います。また、谷口さんのように大学で研究の道に進んでマラウイに戻ってきて活動する先輩隊員の姿を見られたことは、参加した隊員たちにとっても刺激となったのではないでしょうか。

Text=大宮冬洋(本文)、飯渕一樹(コラム   本誌) 写真提供=新井敦子さん、宮重真奈さん、江藤千鶴さん