
野菜栽培隊員として活動しています。赴任先の村には水道がなく、ポリタンクで川の水をくんで生活用水にしていますが、野菜にも多くの水が必要で、何回もくんでくるのは不便です。水を確保するため、水源からパイプを引いて簡易的な水道を整備するアイデアも挙がっています。しかし、村にも県にも資材を買うお金がありません。同僚はクラウドファンディングで寄付を呼びかけ、資金を賄ったらどうかと考えています。ただ、メンテナンスの必要も出てくるとしたら、そのたびに寄付を募るのも現実的ではない気もします。
私は今、日本の地方の地域おこしにも関わっていますが、隊員の活動とも通じると思います。地域おこしの問題としてよく聞くのが、「お金がない」「人がいない」です。その解決は難しく、正解はありません。一つ言えることは、たとえ寄付金を集めて一時的に解決しても、持続性はありません。
地域づくりには、「仕組み」と「仕掛け」の2つが必要とよくいわれます。仕組みは、制度やシステムのことで、例えば税金や利用料を徴収するとか、井戸や水道を管理する水委員会をつくるとか、永続的な管理体制です。しかし、仕組みをつくり、機能を発揮するようになるまでには、時間がかかります。ここで、仕掛けが必要になります。
仕掛けは一言でいえばイベントです。例えば、ごみに関する仕組みをつくろうと思ったら、街のごみ拾いイベントを呼びかける。それを地域の祭りに合わせて開催するなど、多くの人にアピールするアイデアを考えることが隊員の醍醐味です。仕掛けを通じて住民にごみ回収の仕組みが必要だと訴えていくことは、すぐに結果が出なくても、仕組みを社会に実装・定着させるために重要な仕事です。
隊員時代にタンザニアで資材管理業務に携わった私が最も腐心したのは、鉛筆1本買うのにも書類を何枚も書かなければならない無駄な業務の効率化でした。しかし、それを変えることは最終的にはタンザニアの行政改革に取り組むようなもので、一人の隊員にできることではありません。そこで私は日常的な小さな作業の効率化を図り、地道な業務改善策の導入に日々取り組むようにしました。
それでも、隊員の方々には、失敗を恐れず、大胆な発想力を持って社会を動かすような仕組みづくりにも果敢に挑戦してもらいたいと思います。仮に失敗しても、その経験は今後に必ず生きてきます。
最後に隊員の皆さんにお願いがあります。帰国後は協力隊経験をぜひ日本の地域活性化に役立てていただきたい。そして、10年後に再び任地を訪れ、隊員時代に受けた恩返しをしてほしい。現地の方々とのつき合いや、協力隊員としての生き方は、帰国してからが本領発揮なのです。
タンザニア/在庫管理/1985年度1次隊・神奈川県出身
拓殖大学商学部卒、東京海洋大学大学院修了。協力隊に参加した後、(株)エイト日本技術開発所属の開発コンサルタントとして社会基盤整備に関する国際協カプロジェクトに携わる。2015年より拓殖大学国際学部教授、20年より学部長。教え子と共に山梨県富士川町におけるまちづくり活動も進める。
Text=三澤一孔 Photo=阿部純一(本誌)