JICAが協力隊経験者の社会還元の機運を高め、よりよい社会の実現を目指して行っている「JICA海外協力隊 帰国隊員社会還元表彰」の第2回受賞者が2024年4月に決定し、6月に大賞決定と表彰式が行われました。受賞した6人の授賞理由とコメントを紹介します。
大賞・アントレプレナーシップ賞
エチオピア/体育/2014(平成26)年度2次隊・鹿児島県出身
一般社団法人チョイふる 代表理事
食料の無料配達などを通じて、孤立しがちな困窮家庭とつながり、各家庭に必要な情報を提供しながら、行政や専門機関の支援につなげている。地域住民や福祉の専門家と連携して、多くのボランティアが参加しやすい仕組みを構築し、そのノウハウを地域を越えて他の団体にも伝えている。日本の貧困状態の子どもの課題解決を目指す社会的インパクトの大きい取り組みとして評価された。
父親の母親への暴力や貧困に苦しんだ自身の生い立ちの中で、「選択格差」という課題を感じてきました。既存の支援制度はあるのに、その情報に手が届いて選択できる人と、できない人の格差です。そして協力隊で赴任したエチオピアで、手足を切断され物乞いをさせられている子どもたちの存在を知ったことをきっかけに、「自分はまだ恵まれていた。これからは日本の子どもたちが選択肢を持てる社会を目指していきたい」と思いました。
帰国後、子どもの貧困問題解決を目指して、働きながら事業をスタートし、3年目に東京都足立区を拠点に団体を設立しました。「チョイふる」という団体名には、経済的に困難を抱える子どもたちが「チョイス」(選択肢)を「フル」(たくさんある)に感じられる社会をつくりたいという思いが込められています。多くのセーフティーネットがあるにもかかわらず、日本社会でいまだに子どもの貧困問題が減らないのは、頼れる存在がなく、既存の支援にたどり着けないことが大きな要因です。本来あるはずの選択肢を少しでも身近にすることが、私の使命です。
現在、食料配達を通じて孤立しがちな家庭とつながる「食料支援」、オンライン・オフライン両方で実施する子どもの「居場所支援」、SNSを使った生活相談支援「繋つなぎケア」の3つを柱に活動しています。支援対象ごとの「電子カルテ」を作成して各家庭と伴走しながら、一人でも多くの子どもたちに支援を届けたいと活動しています。
また、会員制コミュニティ「こどもリンクサポーター」などの仕組みを通じて、高校生から年配の方までたくさんのボランティアが参加してくれていて、皆さんと一緒に地域の課題をどのように解決していくか、日々模索しています。将来は足立区で取り組んでいる活動が全国に広がっていくように、全国の都道府県の団体と連携して子どもの貧困問題を解決できる仕組みをつくっていきたいです。
カンボジア/青少年活動/2014(平成26)年度1次隊・福岡県出身
ACNC認定TukTuk for Children 理事(※)
Rermork for Children アドバイザー
協力隊で派遣されたカンボジアで、幼稚園教員へのトレーニングの必要性や教材不足を感じ、2016年に団体を設立。提携する幼稚園の教員に向けたワークショップを開催してきたほか、1,200点以上の教材を作り、教員が無料で使えるよう、公式ウェブサイトや各種SNSで公開している。ウェブサイトは10 万人以上がアクセスする人気サイトに成長。リソースが限られている途上国において有効なアプローチであり、社会的インパクトが大きいと評価された。
オーストラリア出身の夫と共にカンボジアで幼児教育支援をしています。教材を運ぶ三輪バイク「TukTuk(トゥクトゥク)」を団体名にしました。カンボジアの幼児教育のカリキュラムを読み込み、海外からカンボジアに来ている幼児教育の専門家や現場の関係者と協力しながら、保育現場で必要とされる使いやすい教材を作っています。今後は、将来、現地の方々だけで活動を続けられるよう、幼児向けの教育番組の制作や、教員が考えた教材を共有できる仕組みを整えていきたいです。
バングラデシュ/コミュニティ開発/2013(平成25)年度3次隊・岐阜県出身
株式会社東美濃ビアワークス 代表取締役
隊員時代にバングラデシュでラジオ体操づくりに携わった経験から「参加型の体験コンテンツが人を動かすきっかけになる」と考え、映画留学や地方創生事業の仕事などを経て起業。地元・岐阜県瑞浪市にクラフトビールの醸造所を設立し、地域の特性を生かしたビール造りや、ビールを通じた地域の魅力発信をしている。人口減少や高齢化が進む町の関係人口拡大や移住促進に貢献し、地域活性化のモデルになり得る活動として評価された。
現地の方々とバングラデシュ版ラジオ体操をつくった経験から、ラジオで放送して終わりの“番組”制作だけでなく、持続性のある参加型コンテンツの重要性に気づきました。2020年に起業して、地域の食材や伝統工芸とコラボして東美濃ならではのビールを造り、ビアバーも開設しました。将来はここを釜戸町のツーリズム拠点にしたいと考えています。空き家対策チームの活動も軌道に乗り移住者が増えています。今後もビールを通じて地域をPRしながら人とのつながりを増やしていきたいです。
ルワンダ/理科教育/2015(平成27)年度1次隊・静岡県出身
株式会社マキノハラボ 代表取締役
YAMBI CONNECT LLC. CEO
静岡県牧之原市の廃校を活用して地域活性化ビジネスに取り組む。協力隊時代に学んだ「地域活動では多面的な取り組みが重要」という視点を生かしながら、町を元気にする多様なアイデアを次々に具現化。宿泊サービスや外国につながりのある子どもたちへの日本語教育、スマート農業、イベントを通じた町づくりなど、地域の人々を巻き込んで共に発展していく取り組みが地域活性化のモデルになると評価された。
新卒で参加した協力隊では小中一貫校に派遣され理科を教えていました。ルワンダ語を必死で学んで現地の人々と意思疎通を図る中、友人ができ、スタディ・ビジネスツアーなどを行うYAMBI CONNECT LLC.の起業に至りました。ルワンダつながりでマキノハラボの事業も手伝うようになり、現在2社を経営しています。どちらの会社も協力隊で学んだように、地域の方々と親しくなることが第一歩。皆さんに協力していただきながら事業を広げています。
ブルキナファソ/環境教育/2017年度2次隊・埼玉県出身
NPO法人クリーンオーシャンアンサンブル 代表理事
IT企業を経て協力隊に参加し、ブルキナファソで簡易埋め立て場を造るなど、環境省や自治体が動くきっかけをつくった。帰国後、協力隊の仲間と共に起業して海洋ごみの回収装置を開発し、香川県小豆島で海洋ごみの回収に取り組む。海洋ごみ問題の解決は世界的にも重要な課題であり、地域の漁師や住民、自治体、企業などたくさんの方々と協力関係を築きながら取り組んでいる点が評価された。
縁もゆかりもなかった小豆島で地元の方々と関係性を築けたのは、協力隊時代に現地の方々と同じ釜の飯を食べて仲良くなった経験が生かされています。NPO立ち上げ当初は資金調達も組織運営も手探りでしたが、学生時代にバックパッカーとして世界のごみ問題を目の当たりにして以来、模索してきた活動にしっかり向き合っていきます。
マラウイ/看護師/2012(平成24)年度3次隊・千葉県出身
成田赤十字病院 看護師
協力隊員としてマラウイの病院で活動後、成田赤十字病院に復職。仕事をしながら大学院に通い、「外国人患者に関わる看護」について研究し専門性を高める。国際診療支援室の専任看護師として、外国人患者やその家族への医療支援を続けてきたほか、病院内の医療従事者に向けて異文化看護に関する現場レベルの研修や講義を行うなど病院関係者の指導を行っている。
2015年の復職後に高度治療室に所属し、20年からは国際診療支援室の業務も兼務しています。宗教上の理由で食べられない食材があったり、消灯後も大声で電話したり、外国人患者の対応が難しいと感じる職員は少なくありませんが、職員の不安や誤解を減らし、外国人の方が安心して医療を受けられる環境をつくることが私の役割です。今後は協力隊のネットワークも活用しながら、他の医療機関とも連携していきたいです。
式典は2024年6月7日にJICA本部(麹町)にて開催され、49名の応募者から選出された6名が活動内容をプレゼンし、選考委員による審査が行われ大賞が決定した。式典後はネットワーキングイベントが開催され、OVが起業した6団体の事業紹介などが行われた。
Text=新海美保 写真提供=栗野泰成さん(プロフィール)、小柳真裕さん(プロフィール)
Photo=ホシカワミナコ(浅野さん、江川さん、香川さんプロフィール)、阿部純一(本誌 東さんプロフィール、式典)