
アルゼンチン/相撲/2023年度4次隊・青森県出身
相撲どころ・青森県鰺ヶ沢町に生まれ、小学生の時に兄の稽古に付き合うようになったことがきっかけで相撲道場に通い始める。以降、世界女子ジュニア相撲選手権大会優勝(重量級)、世界相撲選手権準優勝など輝かしい成績を記録。海外の選手との交流を経験する中で相撲を世界に広めたいという目標を抱き、大学では相撲部に所属しながら国際関係学部で学んだ。卒業後は愛知県の企業の人事部に勤め、同社の相撲部で活動した後、協力隊に参加。
現在、協力隊唯一の相撲隊員として活動しているのが、今 日和さんだ。アルゼンチン相撲協会に配属され、首都の相撲道場に通う生徒たちの指導を始めて約6カ月がたつ。
「5年以上続けている人もいれば、最近始めた人もいて、レベル差はあるのですが、基本の技を中心に稽古しています。生徒たちは、疲れてからも集中力を高めて向かっていく根性があるし、私から一つでも多くを学ぼうと真剣に稽古に取り組んでいます」
鰺ヶ沢町で生まれ育った今さんは、小学校1年生の時に相撲を始めた。内気な子だったが、相撲を通じて海外の選手らと交流の輪が広がっていったことで、それが相撲の楽しさの一つとなった。
女子相撲の実業団はないため、大学卒業後は男子の実業団相撲部がある企業に就職して、特例として入部させてもらった。しかし、男性のみの相撲部に所属し、職場の理解を得ながら相撲を続けることにはさまざまな障害があり、今さんは次第に孤独感を募らせていった。
大学の相撲部までは土俵に入ったら男女関係なく、一人の相撲選手として甘やかされず厳しく育てられてきたが、社会に出て女性が相撲を続けることの難しさに直面した。
「好きな相撲を続けるのが難しく、心が折れそうにもなりましたが、それでは今までお世話になった人たちに申し訳ないし、相撲を世界に広げるという夢も実現したい。武者修行のつもりで海外で経験を積むことを決断しました」
アルゼンチンでは相撲はまだまだマイナーな競技。今さんは、日本大使館や日本語学校が行うイベントで積極的に相撲のデモンストレーションを行っている。
「一般の方々に相撲を知ってもらい、応援してもらいたい。私もまわりの応援が力につながってきた経験があるので、生徒たちにも同じ経験をしてほしいのです。絶対に失敗するからデモンストレーションに出たくない、と言っていた生徒が、指導によって上達し、四股も立派に踏めるようになるなど、成長を見るのはとても嬉しいことです」
活動の最大の目標は、アルゼンチン相撲協会の組織力を向上させることだ。
「相撲協会はお金や人手が足りないため、良い選手が育っても、国内大会の開催や海外大会への派遣を諦めざるを得ない状況です。相撲の応援者を増やすことに加え、これからは組織の改善もしていきたいです。もちろん、異国の組織の人たちに働きかけるには慎重さが必要で、悩みも多いのですが、私の課題として全力で取り組んでいきます」
今さんには大きな夢がある。相撲をオリンピック種目にすることだ。
「今、日本のアマチュア相撲は危機的状況にあって、国体から相撲が外れる危機もささやかれています。日本の伝統競技とはいえ、残す努力をしないと消えてしまうでしょう。存続のためには女性も相撲を続けられる環境づくりや、相撲を世界に広めるためにオリンピックの種目に取り入れられることが必要です。将来、一人の競技者から組織の委員や指導者として成長し、環境・制度面から相撲を盛り上げていくために、アルゼンチンでの活動は最初の試練だと思っています」
Text=阿部純一(本誌) 写真提供=今 日和さん