浅井恵子さん

海洋民族の伝統も生かしてヨット競技を振興!
初の「パラオカップ」を開催しました

仙田悠人さん

(パラオ/青少年活動/2023年度2次隊・島根県出身)

JICA Volunteers’ Reports
子どもたちにはヨットを動かすための理論など、座学も丹念に教えている

   2023年からパラオセーリング協会に配属されて、パラオの子どもたちにヨットの魅力を伝えています。週末に8歳から13歳の子どもたち13人が海辺に集合。朝からヨットの基本や船の維持管理方法、海上交通のルールなどを学び、1日を午前と午後に分けて練習します。

   パラオにはヨット競技が数年前まで存在せず、子どもたちは全員が初心者でしたが、物おじすることなく海に出ていくたくましい姿には感銘を受けました。彼らの先祖は帆のついた伝統的なアウトリガー(※)船で島を渡り、新天地を目指してきました。私はヨット教室を通して、小さな子どもたちにさえ海洋民族としてのDNAを感じています。


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パラオカップの開催場所は、日本のODAで建設された「日本パラオ友好橋」の付近の海域。当日は風向きも望ましく、大会は成功裡に終わった

   日々の指導に加え、ヨット大会にも力を入れています。24年1月にパラオでグアムチームと親善レースを実施し、3月にはパラオで日パ親善レース、7月には日本開催の「横浜港ボート天国」にパラオ側の引率者として同行しています。そして同年9月、パラオ国内で初めてのヨット大会として「第1回パラオカップ」の実現にこぎ着けました。


   大会の狙いは、モダンと伝統を結びつけて現地に根ざした活動にすることでした。子どものヨット初心者による2レースと中級者の3レースのほか、大人によるアウトリガークラスでは5艇からなる1レースを実施し、大会は盛り上がりました。独立記念日のイベントと合わせて開催したことで多くの人に観覧してもらうことができ、子どもたちは「みんなの前でヨットに乗れて楽しかった」と誇らしげな表情でした。閉会式には日本のみならず各国の大使やパラオの大統領なども出席し、国を挙げた将来性あふれる大会となりました。

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国内でも民族ごとにカヌーの伝統文化は異なり、特に市街化された中心地域では伝統が残っていないこともある

   私は大学時代からヨット部に所属していたのですが、大会の企画から運営まですべてを担ったのは今回が初めてです。開催場所の選定や参加者への呼びかけなど準備すべきことが山積みで、特に難しいと感じたのは関係者との交渉。小型ヨットに対する現地の方々のあいまいな理解に悩みました。さらに、大会当日は隣接する場所で30年の歴史を持つモーターボートレースが予定されていて、小さな船がうろちょろすることを疎ましく思う人もいたようです。場所の確保などが難航する中で開催中止が頭をよぎる瞬間もありました。

   しかし、当日は子どもたちが海を自在に駆ける姿を見せてくれて、すべての苦労が報われた思いでした。保護者の方々をはじめ、多くの人と協力して実現したパラオカップは、来年も実施することを大臣に確約してもらい、新艇の建造も着手済みです。次回は国内全16州代表のヨット・カヌーが出場できるよう準備を進めています。

   大好きなヨットの魅力を伝えるべく奔走し、気づけば任期終了まであと少しです。新卒かつ初の“ヨット隊員”として、自身の経験不足や、ゼロから生み出す難しさを感じたこともあります。将来への種をまくために、できることはなんでも広くチャレンジしようと考えています。


※アウトリガー… 舟の安定性を増すため、船体の横に突き出して設置する浮きのこと。

Text=新海美保 写真提供=仙田悠人さん