今月のお悩み雨が少なかったためモリンガが育ちませんでした。
2年目はどうしたらいいでしょうか?
(ナミビア/コミュニティ開発)

   農民の収入向上のためにモリンガの栽培を広げようと考えました。モリンガの葉には多くの栄養素があり、油を抽出して現金収入源とすることもできるからです。ところが1年目は平年に比べて雨が極端に少なく、苗木がまったく育ちませんでした。2年目に向けて、どういうことに気をつけたらいいでしょうか。

野田先生からのアドバイス「平年並み」を基準にできるのは限られた地域だけです
「隠された仮説」を前提にしていないか洗い出しを

   日本の天気予報では、「平年に比べて何度低い」などと、平年が基準になっています。けれども「平年」という概念自体が、温帯で雨の多い地域を除くと、世界では通用しないと思ったほうがよいでしょう。

   特に乾燥地では1年間に50mmの雨しか降らない年もあれば、1,000mm降る年もあります。そういう地域で平均値を想定して、「植物が育つはず」と計画してもあまり意味がありません。長期間、統計を取ってみれば、20年のうち5年くらいは雨が降り、植物が育つかもしれません。しかし、それが自分の派遣されている2年間に適用できるかどうかはわかりません。

   実は私も、最初に乾燥地でプロジェクトを始めた頃、こうしたことで失敗をしました。5年計画でどういう木をどれくらい植えるかという計画を作り、それを5で割って、「毎年これくらい植えればよい」と考えました。ところが、それぞれの年で天候の違いから木が思うように育たないことも多く、こうした計画はまったく機能しないと気づきました。私はこの思い込みを「平年並み症候群」と呼んでいます。

   平年並み症候群もその一つですが、現場には「隠された仮説」がいっぱいあります。本当にそうなのか、他に条件がそろわなかったら成立しないのではないか…とすべてに「疑いの目」を向けることが大切です。

   モリンガを育てると収入向上につながるというのも仮説です。収穫ができたとして、販売して流通に乗せるルートはあるのか、数人の村人がほんの数十本栽培したモリンガを業者が買い取ってくれるのか、多くの検証が必要です。

   活動計画を作る段階で、どこにどんな仮説が「隠されて」いるか洗い出してみましょう。一例を挙げると、「住民の要望に基づいて植樹用の苗木を用意するため、まずは任地の複数の村の村長にインタビューする」という計画は、「どの村の村長もすべての村人のニーズを把握する能力がある」という仮説に基づいています。ではどうすればよいか、村を政治的に代表しているのは村長ですから、顔を立てるべきですが、並行して多くの住民の意見が反映される方策を探るのがよいでしょう。大きなプロジェクトもスタートは仮説に基づいているに過ぎませんし、やってみて初めて気づく仮説も多いはず。常に仮説があることを認識し、失敗に学ぶ姿勢が大切です。

今月の先生
野田直人さん
野田直人さん

ホンジュラス/森林経営/1980年度1次隊、ネパール/森林経営/1983年度2次隊・愛知県出身

三重大学の農学部林学科を卒業。協力隊員として活動した後、1986年からJICA専門家としてペルー、ボリビア、ケニア、タンザニア、ミャンマーなどで勤務。国際開発コンサルタントとして、参加型開発を実践する草分け的な存在。2005年に有限会社人の森を設立し、開発協力実施団体向けのコンサルティングや講座を実施している。また、協力隊派遣前訓練・技術補完研修の講師も務めていた。派遣前訓練でも使用された『続・入門社会開発』など、著書多数。


Text=三澤一孔 写真提供=野田直人さん