マラウイ/コミュニティ開発/
2014年度2次隊・福岡県出身
長さ・流域面積共に九州一を誇る一級河川、筑後川の周辺地域の市民団体を対象にサポートする「一般財団法人ちくご川コミュニティ財団」。子ども・若者や災害に焦点を当てた助成事業や休眠預金等活用事業を展開し、2019年の設立から約5年で250件、2億5,561万円の支援実績がある。事業部長を務める庄田清人さんは財団のキーパーソンとして地域課題解決のためのハブの役割を果たしてきた。
「財団では、資金面の支援だけでなく、組織基盤強化のための専門的支援や地域づくりにも携わります。その活動には協力隊経験が大いに生きています」
そう語る庄田さんが海外に関心を持ったのは小学生の時。アフリカの子どもが飢えて苦しむ姿をテレビで見て、「自分と同年代の子がなぜ?」と感じた。さらに中学校時代の教員に「世界へ行くなら協力隊がある」と教えられ、将来の夢を「協力隊でアフリカへ行く」ことに定めた。
その頃、打ち込んでいたサッカーで負傷して理学療法士の治療を受け、人と接する理学療法士として協力隊に参加する道に魅力を見いだした庄田さん。高校を卒業するとリハビリテーションの専門学校で学び、その後は福岡県の聖マリア病院で働いた。業務の傍ら、同院設立のNPO法人ISAPHによる海外スタディツアーに参加するなど海外経験も積み、ついに14年、現職参加でマラウイへ派遣された。
「専門の理学療法士ではなく、公衆衛生分野の要請とはいえコミュニティ開発だったので、自分が役に立てるのか?との不安はありました。ただ、理学療法士として1人の患者さんと相対するこれまでの経験と異なり、地域を広く見て活動する視点を得られるのではないかとチャレンジしました」
庄田さんの主な活動は北部ムジンバ県の村々を巡回して乳幼児検診を実施すること。「青空の下、1回の検診に100〜200人が集まる“カオス”な状態。ワクチン接種年齢の記録や計測のミスもありました」。そんな中、生後5カ月で3,000gに満たない乳児が見つかった。近くに大きな病院もない中、村内でできることを探った結果、乳児に直接治療などを行うのではなく母親の栄養改善にアプローチすることになった。
「9カ月後、標準体重にまで増えました。同僚と議論を重ねて赤ちゃんの命を守った経験はとても貴重です」
さらに、記録ミスが多かったヘルスパスポート(母子手帳)に関する基礎調査に取り組んで国を挙げた改訂プロジェクトにつなげるなどの活動の傍ら、任地でスポーツ大会も開催。青少年育成の一助として企画したが、部族長や村長、教員など多様な人と普段から培っていた信頼関係が礎になり、皆の協力の下、延べ参加者数6,000人に上るイベントに発展した。帰国・復職後は新たにできた聖マリアヘルスケアセンターでリハビリ部門のチームリーダーとして後輩の育成に尽力したが、1年半後に故郷の福岡県飯塚市へ戻った。
「きっかけは母の介護のためですが、協力隊の経験から、病院の中だけでなく、地域で何らかの取り組みをしたいという思いが強くなっていました」
18年に個人事業主として独立し、制度のはざまにいて病院で治療を受けられない“リハビリ難民”のための事業を目指したほか、地元のまちづくり会社の誘いを受けて、地域ヘルスケアやSDGs教育にも携わった。
そして同年、協力隊時代の縁もあって、ちくご川コミュニティ財団での仕事に関わるようになる。子どもの学習や食の支援を行う無料塾、若者の自立を支える団体などさまざまな非営利組織をサポートしてきたが、財団の仕事はマラウイで試行錯誤を繰り返した日々の延長上にあると庄田さんは強調する。
「一人ひとりの声を聞いて実行団体が抱える課題を整理し、全体を俯瞰しつつ伴走しながら解決策を考える。この過程は、まさにマラウイで実践したことと同じ。隊員研修などで学んだプロジェクト・サイクル・マネジメント(PCM)の知見も応用しています」
特に大切にしているのは、支援先の団体と「対等なパートナーであり続けること」と話す庄田さん。
「資金を提供する側・される側という関係性では絶対にうまくいきません。役割は違っても目指す目標は同じで、相手への尊敬、そして一緒に進んでいく姿勢が基礎になる。この視点はマラウイでの協力隊員としての活動を通じて学んだことです」
地域社会にある多様で複雑な課題を目の当たりにし、解決の難しさを感じるが、目の前にある困難を決して放っておかない。その覚悟を胸に、庄田さんはこれからもたくさんの人を巻き込みながら走り続けていく。
2009年
2014年
元々は理学療法士の職種での参加をイメージしていましたが、コミュニティ開発で参加。
地域に出て多様な視点で活動した経験が、今の仕事でも生きています
2017年
最先端の設備が整った新設のリハビリ施設に配属され、マラウイとのギャップに戸惑いましたが、隊員時代に培った「なんとかなる」の精神で乗り越えました
2018年
まちづくり事業や高校の非常勤講師などいろいろな活動を模索。県内在住のマラウイ人との出会いをきっかけに団体を設立し、日本とマラウイをつなぐ事業も始めました
2020年
この会社ではリノベーションしたシェア空間で市民のヘルスケアやSDGs教育などを行い、
地域活性化に取り組みました
2022年
2024年
孤立しがちな不登校の子どもを支えるため、フリースクールなどの利用料を補助する奨学金事業を開始。奨学生との面談を通じて子どもたちの置かれた状況の厳しさを痛感し、公的制度として組み入れられるよう、自治体などへの働きかけにも力を入れています
Text=新海美保 写真提供=庄田清人さん