Case2
異文化の新生児医療にモヤモヤも
他者を理解し、認める経験を積んだ2年

竹内 理 さん

ブータン/看護師/2022年度7次隊・愛知県出身

竹内さんが身についたと感じる力 柔軟性 働きかける力 異文化理解・活用力
活動を通じて何が変わった?   協力隊で身につく19の力
活動を通じて何が変わった?   協力隊で身につく19の力
ブータンでは新生児室に僧侶がいて大きな音で鈴を鳴らしたり、仏様の加護を受けるためのホーリーウォーターという黄色い水を赤ちゃんにかけたりする。「なるべく刺激を与えないようにする日本の新生児医療とは全く違って驚きましたし、口を挟むべきかどうかモヤモヤしました」(竹内さん)

   愛知県の赤十字病院で13年、そのうち5年は新生児集中治療室(以下、NICU)で経験を積んでいた竹内 理さんが看護師隊員として派遣されたのはブータン。配属先は首都ティンプーにある中核病院のNICUだったが、赴任当初から困難の連続だった。

「ブータンの医療はインドからの技術や知見を多く取り入れていて、さらにチベット仏教の伝統的な観念も深く影響しているため、赤ちゃんの看護の仕方から使う道具まで、欧米や日本とは全く違います。そこで意見が合わないこともありましたし、死生観の違いから、延命処置をどこまで続けるかという基準も異なっていてショックを受けたことも。ですが、ここはブータン。私が一概にダメと言い切れないので、少しずつ歩み寄って受け入れるべきだと考えるようにしていました」

   そんな“柔軟性”が身についてからは活動が軌道に乗り、同僚たちとも良い関係が築けるようになったと話す竹内さん。とはいえ、日本では自分が「こうしたい」と業務の改善を発案すると、周りが自然と協力してくれたが、ブータンではもっと積極的に働きかけなくては、周りの協力は得られない。そこで竹内さんは、世界保健機関(WHO)や医療専門家が監修している「POCQI(ポキ)」(※)による業務の質改善プログラムを実施し、同僚たちに協力を仰いだ。

「当時、赤ちゃんの点滴が入る部分の皮膚が壊死する事例が多かったのですが、プログラムを通じて課題の洗い出しや分析、改善というプロセスを重ねていくと、事例件数がかなり減ったんです。それが皆の成功体験になり、看護の質がどんどん上がっていきました。私は黒子役に徹して、いかに現地の人に動いてもらうか。協力隊の活動には、そんな“働きかける力”が必要だと痛感しました」

   紆余曲折を経て、ブータンの生活習慣や宗教観とより深く関わるうちに、異文化を受け入れることへの抵抗感が減り、認めることができるようになったと、にこやかに語る竹内さん。“異文化理解・活用力”がついた証拠だ。帰国した今、その力は大いに役立っていると話す。

「今は、沖縄県の公立久米島病院に入職し、地域医療、島嶼医療を日々学んでいます。赴任してまだ4カ月ですが、ブータンで育んだ異文化理解の力があるからこそ、住民の方々や患者さんたちと良い関係が築けて、地域にも順応できているのかなと思います。現地になじむために、知らない相手でも擦れ違った時に挨拶したり、なるべく方言を使ったり、心を通わせるやり方はブータンで学んだことです」

   自らの2年間の活動を振り返り、任期中はとにかくやりたいことに向かっていくのがよいと話す竹内さん。

「赤十字など他の団体はプロジェクトの中で活動できる範囲が限られていることが多いですが、協力隊は、そういう壁が低い存在です。私も当時、企業の方と勉強会をしましたが、さまざまな企業・団体や他職種の人と協働し、活動の幅を広げていくと、とても充実した2年間になると思います」

※POCQI…Point Of Care Quality Improvementの略。インドの医療系教育機関やWHOが監修する、妊産婦や新生児の死亡率を引き下げるための取り組み。医療現場の業務改善のための資料や各種情報を発信している。

Text=池田純子 写真提供=竹内 理さん