日系/ブラジル/小学校教育/2022年度1次隊・東京都出身
日本で30年間にわたり公立小学校教員として働いた春田かほるさんが、定年を迎える時に「新しいことをしてみたい」と選んだのが協力隊。定年後の4月から派遣前訓練に入り、小学校教育隊員として、サンパウロにある2歳から高校生までが在籍する私立学校に赴任した。要請内容は「日本文化の紹介と国際理解の推進」。学校がちょうど創立50周年を控えていて、学校からの要望は小学生に折り鶴作りを教えることだった。
「折り紙の端と端を合わせて紙をきれいに折るだけでも、未経験の子どもたちには難しいです。そこで簡単なものから始めていくことにしました。1回目の授業は家からピアノへと形の変化が楽しめる折り紙にしたのですが、子どもは興味が持てないこと、できないことはすぐに投げ出してしまいます。どうすればこちらを向かせられるかを考えて、次は遊べるものがいいのではと大きな紙飛行機を作って教室で飛ばしてみると、とても喜んでくれました。授業後、一番後ろに座っていた男の子が、私のところに走ってきて頬にキスをしてくれました。もう、本当に嬉しくて」
折り鶴の指導の後、1月の新年度からは月1回の授業をすることになった春田さん。そこで必要となったのは“主体性”だった。
「カリキュラムに“日本文化の紹介”があるわけでもなく、歴代隊員で活動内容もかなり違う。自分で考えて動かないと、何もせずに終わってしまいそうだと危機感を覚えました。文化紹介以外にも、日本語クラブを実施したり、日本文化にまつわる物を飾るコーナーを作ってもらったりもしました」
日本文化を紹介するため、手ぬぐいや風呂敷、茶道具、着物、浴衣などは日本から持参していたが、生徒一人ひとりが手にするには足りなかった。そこで、不織布を手ぬぐいや風呂敷の代わりにしたり、薄いピンクの紙で桜の飾りを作るなど、学校にある物やブラジルで購入できる物を使用した。
「これは長年の教員生活で試行錯誤しながら授業準備などを行う中で培った知識・技術でもあり、それを現地に転用する中で“現場力”が養われました」
教育者としてはプロ中のプロの春田さんが、協力隊活動を通して一番身についたというのが“異文化理解・活用力”だという。
「日本にいる時は、カリキュラムで『国際理解教育』を行わなければならないといわれると、何をすればいいのかと少し憂鬱になる感じでしたが、海外で暮らし、仕事をする日々は、異文化理解と活用の連続でした。ブラジルの皆さんは、分け隔てなく誰にでも親切。私もとても大事にしてもらいました。日本を離れたことで改めて日本の価値に気づいたこともよかったです」
帰国後は国際理解の出前授業にも積極的に関わる春田さん。
「授業の最後に『なぜ異文化を学ぶと思いますか?』って聞きます。子どもたちはうーんとなる。そこで私が話すのは、『今、あなたの隣にいる人も、違う文化で育っているから、理解できないことはある』と。『どうしても受け入れられないことも出てくるかもしれないけれど、文化の違いを認めることで、最低限、攻撃せずに一緒にいることはできる。それが平和に結びつくと思います』とまとめます。今後も私の協力隊経験を子どもたちに伝えていきたいですね」
Text=池田純子 写真提供=春田かほるさん