
協力隊活動の任期が残り半年となり、帰国後の進路を考えていますが、引き続き国際開発に関わりたく、そうした企業に就職したいと考えています。ある程度自由な協力隊員としての活動と、職業としての国際貢献は違うとは思いますが、今後、どのようなスキルを身につけていけばよいでしょうか?
私は技術コンサルタント企業に約35年間勤め、海外事業部長として協力隊OVの採用を担当した期間もあります。隊員から就職に向けたアドバイスを求められた時には、「専門スキルは帰国後に身につけられるけれど、現地社会の中で生きている協力隊員の時にしか学べないことがある。最後まで活動に専念することが大切」だと答えています。それが帰国後に国際開発だけでなく、グローバルに働ける能力を養ってくれるからです。私自身、30カ国以上でコンサルタントとして活動してきた中で、最も役立ったことが協力隊員時代にサモアで身につけた「文化人類学的視点と分析力」でした。
皆さんもきっと次のような悩みを持つことがあると思います。「現地の人の言動が理解できない」「行動が予想できない」「そのために嫌な思いをした」「不安になったり嫌になったりした」。そんな時に文化人類学が役に立ちます。自分と異なる文化や社会をフィールドワークを通じて研究する学問で、国際的な対応力や他者を理解する力が身につきます。
この国の人々の文化・習慣はこういうものだと慣れてしまうのではなく、人間の言動や行動には、所属している社会や組織の中での役割りや立場、価値観が働いていて、何らかの合理性があるはずだと、常に探る視点を持つことが大切です。
私は活動や人間関係で悩むたびに、持参した文化人類学に関する本のページをめくりました。その習慣を繰り返すうち、目の前の言動に簡単に怒らなくなり、現地での活動がスムーズに進むようになったのです。例えばカウンターパートが自分のためにしてくれたことが、自分から見れば小さなことであっても、相手の背景を考えれば、実は一生懸命にやってくれたことかもしれません。それに対して感謝を伝えられれば、人間関係もうまくいくはずです。
多くの隊員は、そのような現地の人とのつき合い方を、1年、2年とかけて習得していくでしょう。しかし、プロのコンサルタントや専門家、また国際機関職員やグローバルビジネスマンも、そこに多くの時間は割けません。将来の国際開発に携わる業務の訓練をじっくりできる貴重な機会として、今の活動に専念してほしいと思います。
サモア/土木施工/1980年度4次隊・千葉県出身
工業大学を卒業後、建設会社に勤務。海外でインフラ整備に携わる希望をかなえるため、協力隊に参加しサモアの公共事業省土木課で活動した。帰国後の1990年に総合コンサルタントの国際航業株式会社に就職し、環境コンサルタントとして活動。一方で、一般社団法人日本防災プラットフォームの事務局長、一般社団法人協力隊を育てる会常任理事などを兼任し、企業と民間団体の立場から社会貢献を続けている。
Text=阿部純一(本誌) 写真提供=土井 章さん