
(モンゴル/理学療法士/2023年度1次隊・静岡県出身)
長野県内の病院で5年ほど理学療法士としての経験を積んだ後、2023年7月から現職参加でモンゴルに赴任しています。配属先はウランバートル市保健局で、市内2つの病院で現地の理学療法士たちの知識・技術の向上を目指してサポートを続けています。
病院にやって来る患者は腰や膝の痛みを訴える人が多く、肉中心・野菜不足の食生活や高度数アルコールの多量摂取などが原因で糖尿病や心臓病といった疾患を抱える人も目立ちます。また、鍼灸・マッサージのような伝統医療が浸透していることや、病気で動けなくなった人を家族総出で世話をする習慣が根強いこともあり、リハビリテーション(以下、リハビリ)に積極的に努めて「自分の力で改善、自立する」という意識が低いことも活動を進めていく上で難しい課題の一つです。
モンゴルの医療界では07年に理学療法士の養成が始まり、11年に正規の理学
療法士が誕生したばかり。理学療法士の同僚は熱心で意欲的ですが、医師の処方箋がなければリハビリは実施できず、関連制度もあまり整っていません。医師をはじめとする病院関係者に広くリハビリの大切さを理解してもらうことが不可欠だと感じています。
そんな中、24年4月にモンゴルの医師5人が、私が勤めていた日本の病院を訪問。脚にまひがある患者の歩行訓練を見学したり、日本の医療保険・介護保険制度の仕組みを学ぶなど数日間の行程に、私も同行して通訳などのサポートをしました。「退院後の生活も考えて治療やリハビリを進める日本の医療現場は素晴らしい」などの声が聞かれ、モンゴルに戻った後も理学療法について質問してくれる医師もいます。今年3月には医師に加え、理学療法士を伴って日本の病院を視察することもできました。
病院での活動の一方、病気やけがを未然に防ぐ“予防”にもアプローチできればと、24年2月から毎月、市街地周辺のゲル地区(※)で、高齢者向けの健康教室を自主的に開いています。自宅でできる有酸素運動の方法を教えるほか、運動の前後に脈拍を測るなどして健康意識の向上に努めてきました。地域の行事や急な都合で2、3人しか来てくれない回もありましたが、日本のラジオ体操のようにシールを集める“出欠カード”を作るなど工夫を重ねています。
 当初は作業療法士の隊員と私の2人で始めた活動ですが、今では他の理学療法士や栄養士の隊員が加わるようになってにぎやかな雰囲気で開催し、「ここに来るのが楽しい」と毎回通ってきてくれる人も。教室の後には住民の皆さんの料理や音楽を楽しんでいて、文化交流の機会にもなっています。
リハビリの重要性が社会全体に広く浸透するにはもう少し時間がかかりそうですが、病院の内外でその大切さを伝え、モンゴルの人たちが健康で自立した生活を送れるようにできる限りのことをやり遂げたいです。
※ゲル地区…地方から首都圏へ移り住んだ遊牧民がゲルや簡易的な住居を設営することで形成された居住区で、生活インフラの未整備や住民の貧困が課題となっている。
Text=新海美保 写真提供=難波菜摘さん