Case1
帰国・復職を経て再びアフリカの地へ
隊員経験も生かして新事業に挑む

山口未夏 さん

ガーナ/コミュニティ開発/2014年度2次隊・福岡県出身
会宝産業株式会社/Kaiho East Africa Limited
オペレーションマネージャー

大学では国際政治を専攻。貧困問題や国際協力に関心を持ち、ビジネスでアフリカに貢献したいと、JICAの協力準備調査(BOPビジネス連携促進)を活用する会宝産業株式会社へ入社。自動車の中古部品を海外へ輸出する同社の現場業務に1年間携わった後、民間連携ボランティア制度(現在は連携派遣に改称)で協力隊に参加。帰国・復職後は海外のバイヤーと日本の解体業者をつなぐアライアンス部に所属。2017年から千葉営業所で中古パーツのオークション事業に、24年からケニアで中古部品のオークション事業にそれぞれ携わる。帰国後、派遣中に会社へ提出していた日報をまとめた『ガーナは今日も平和です。』を出版。

協力隊を経た先輩のキャリアを知ろう   帰国隊員の仕事の現場
協力隊を経た先輩のキャリアを知ろう   帰国隊員の仕事の現場

   民間連携でガーナへ派遣され、2年間の活動を終えて復職、約10年を経て駐在員の立場でアフリカに戻り、ビジネスを通じた社会貢献に取り組んでいるのが山口未夏さんだ。環境に配慮した自動車リサイクル事業を海外に展開している会宝産業株式会社の新規事業として、2024年4月、多くの日本車が重宝されているケニアで、日本から輸出した中古自動車部品をオークション形式で販売する事業を立ち上げた。ナイロビに設立した合弁会社のKaiho East Africa Limitedではケニア人を10人ほど雇用している。

「中古部品をオークションで売る事業はアフリカで初めてのものです。アフリカでビジネスをすることが念願だったので、ケニア人スタッフと『アフリカで1番の企業にする』という目標に向かって仕事できるのは嬉しいです」

   山口さんは大学時代、「アフリカの人の役に立ちたい」という思いを抱えて就職活動をする中で、会宝産業がJICAの協力準備調査(BOPビジネス連携促進)などを活用してアフリカで自動車のリサイクル事業の可能性を探っていることを知った。当時は新卒採用を予定していなかった同社に直接アプローチしたところ、JICAと連携派遣の覚書を締結してグローバル人材の育成をしたいと考えていた同社の方針と合致し、入社に至った。

協力隊を経た先輩のキャリアを知ろう   帰国隊員の仕事の現場
隊員時代、任地の村での一コマ。言葉が上達する前はジェスチャーなどで必死にやり取りし、葬儀やミサなどの催しには必ず参加してコミュニティに溶け込むよう努めた

   まずは日本国内の現場で自動車リサイクルの業務に1年間従事した後、念願かなって隊員としてガーナへ赴任。食料・農業省の郡事務所に配属されて活動し、農村の収入向上のために供給過剰で廃棄されていた農産物を使ったジュースやジャムパンといった商品の開発・販売に取り組んだ。

「ガーナには公用語の英語以外に民族ごとの現地語が多くあるのですが、それらをまったく話せない状態で村に住んで活動する経験を通じて、何か問題が起きても柔軟に対応できるようになりました」

   帰国・復職後は、ロシアやシリアといった国の顧客と日本の自動車解体会社をつなぐ業務を経て、17年には自社の千葉営業所で、中古部品のオークション事業の立ち上げに関わった。顧客は9割以上がリサイクル業に携わるアフガニスタン人やパキスタン人。女性が働くことを良しとしない価値観の人が多かったが、強く言われても折れずに対応する山口さんを次第に受け入れ、仕事のパートナーとして認めるようになった。そして24年の初め、ケニアでの新規事業に抜てきされた。

「突然、来月からアフリカへ行ってくれないかとの打診がありました。期限も未確定な駐在の求めを動じずに受ける気になったのも、協力隊員としてガーナの村で2年間を過ごした経験があればこそですね」

   同社はケニアでの事業を通じ、粗悪な中古部品が出回る市場の品質向上を図ると共に、タンザニアやウガンダなど東アフリカのハブとして、アフリカ全土での展開も目指す。

「現地のスタッフには技術の他に、5Sによる業務管理や時間・約束を守るといったモラル、安全で衛生的な労働環境を学んでもらい、それを彼らに続く人たちに教えてもらえるようにしたい。ビジネスを通じてさまざまな人の可能性が広がるチャンスを提供したいと思っています」

先輩隊員からの一言!

協力隊を経た先輩のキャリアを知ろう   帰国隊員の仕事の現場
駐在先のケニアにて。「じっくりアプローチして現地の人の考えを変えていく隊員活動と、企業のビジネスは違います。ですが、事業が成長することで雇用や技術移転の面から現地に還元できるものは多いはずです」

隊員経験が役立っているところは?

   問題が起きた時に柔軟に対応する力がついたことです。そして、異国では自分一人では何もできないことを自覚したため、ケニアでも文化やしきたりを尊重して生活しています。挨拶は必ず自分からしますし、知り合いにご不幸があったりしたらお悔やみのお金を贈るなどケニアの礼儀に倣っておつき合いをしています。

   復職後はアフリカ以外の国のお客様がほとんどで、協力隊経験をすぐに還元できたわけではありませんが、お客様と言葉だけに頼らずにコミュニケーションし、仕事の経験を積むことができました。どんな場所・環境にいても、どう生かすかは自分の考え方や捉え方次第。誰かに期待をせず、自分でつくりあげていけばいいと思います。


隊員時代にやるべきことは?

   日本ではできない、現地でしかできない経験を全部積んでおくことでしょうか。ありがたいことに私は帰国後の就職の心配がなかったため、2年間、他のことは考えず現地にどっぷり漬かって生活していました。水や電気が普通に使えるありがたさや、ものがないなら工夫すること、持っている人が持たない人と共有すること、そして貧しくとも他者を思いやるガーナの人の優しさに触れました。

   人との関係性が近すぎることには戸惑いましたが慣れると人と関わって思いやりを持つことをすてきだと感じるようになりました。経済発展しているナイロビでは人づき合いや仕事の仕方がずっとスマートで、半面で不平も多かったりと、国や場所によって文化や習慣が大きく異なることを実感しています。

Text=工藤美和 写真提供=山口未夏さん