日本の宝たる協力隊員の
グローバルな視点での
社会還元に期待したい
一般社団法人協力隊を育てる会 会長
奈良教育大学卒業後、東京教育大学大学院修士課程修了、同博士課程単位取得満期退学。1993年に千葉大学教授に就任し、2013年定年退職、以後名誉教授に。14~23年に千葉敬愛短期大学学長に従事。NPO法人生涯学習応援団ちばなど多数の団体の理事長や会長、アドバイザーも務める。24年より現職。

奈良教育大学卒業後、東京教育大学大学院修士課程修了、同博士課程単位取得満期退学。1993年に千葉大学教授に就任し、2013年定年退職、以後名誉教授に。14~23年に千葉敬愛短期大学学長に従事。NPO法人生涯学習応援団ちばなど多数の団体の理事長や会長、アドバイザーも務める。24年より現職。
私は人であれ、組織であれ「ミッション」「ビジョン」「パッション」の3要素が大切だと考えています。中でも協力隊を育てる会(以下、育てる会)のミッションを象徴するのは、「協力隊は日本の宝、育てて活かす平和の種まき」というスローガン。とてもシンプルでわかりやすく、育てる会、そして協力隊の果たすべき役目を端的に表していると思います。協力隊事業は今年度で発足60周年を迎えますが、60年たっても平和の種まきこそが揺るぎないミッションであり、それを支えることがまた、育てる会のミッションなのです。
協力隊を支援・応援する団体として取り組む中で、私たちが皆さんにとりわけ期待しているのが、日本社会への還元です。2018年よりJICA、文部科学省、育てる会の三者が実施した調査に私も携わったのですが、協力隊参加者は子ども時代から活動的で意欲的。そして隊員としての活動を通して、さらに力をつけている。つまり、へこたれずに頑張る力や自己肯定感などの土台があり、それが協力隊の2年間で花開いているのです。
特に就職・進学といった進路だけでなく、地域おこしや起業といった道を選ぶ例も少なくないのは協力隊を経験した方々の特色です。私のゼミの教え子でも、協力隊からの帰国後に結婚し岩手県へ移住して教員として働き、さらに東京に拠点を移してフリースクール事業を立ち上げた人がいますが、そのように一つの枠に収まらない“尖った”人材が多くいることに、私は大いに期待を持っています。
総務省による「地域おこし協力隊」にも多くのOVが手を挙げていて、1次産業の振興や観光開発、空き家対策などさまざまな分野で活躍していますが、海外で自らの活動を手探りで開拓してきた協力隊経験者にはお手のものでしょう。地域の宝を発掘して観光につなげる、なければつくっていくノウハウを持っているはずです。目下、日本の将来のために人口1万人以下の町を維持することが必要だと考えられていますが、途上国での活動経験を、ぜひそんな町で生かしていただきたい。そのために、例えば各地にいる協力隊経験のある地方議員などと連携して地域で事業を起こす支援を行うなど、私たち育てる会の国内ネットワークからサポートできることもあると考えています。
私が今、現役隊員の方々に贈りたいのは「千里を照らし、一隅を守る」という言葉です。国際的な視点を持ちながら日本の地域を活性化する、グローカルの考え方です。この60年間で、実に累計5万7,000人もの隊員が世界中で活動していて、これらの人材はまさに日本の宝です。還暦という言葉には、生まれた年に戻るという意味があります。私たち協力隊を育てる会としても、今一度、日本が世界に貢献できる「平和の種まき」という原点を見つめ直したいと思っています。
Text=池田純子 Photo=飯渕一樹(本誌)