
(セネガル/看護師/2022年度3次隊・神奈川県出身)
2023年にセネガルの首都ダカールから150kmほどのケベメール市に赴任、地域の保健施設を管轄するケベメール保健区に配属され、妊婦や乳幼児の母親を中心に、保健や生活の課題に取り組みました。管轄地域の村落を調査して強く感じたことが、女性への自立支援の必要性でした。一夫多妻が多いセネガルでは、妻は夫への依存度が高く、何かあって夫が働けなくなると、たちまち貧困に陥ってしまうため、女性自らが生計を立てる手段が必要だと思ったのです。
そんな中、“ケベサック”のアトリエが私の住まいの目と鼻の先にあることを知ったのは偶然でした。ケベサックとは、色鮮やかなアフリカ布を使った手作りバッグで04年に村落開発普及員隊員が、女性の就労支援を目的に立ち上げたグループによって作られてきました。私もケベサックは以前から知っていて、どこで作られているのか探していたのですが、メンバーの家族が町を歩いていた私を呼び止めてアトリエを案内し、「昔、日本人の隊員とここでバッグ作り
を始めたのよ」と話してくれたのです。
私はケベサックの立ち上げメンバー6人と、コロナ禍を経てほぼ開店休業状態だったアトリエを再稼働させることにしました。自分たちで少しずつ布を買ってバッグ作りを再開したところ、1年ほどの間に、JICA事務所の職員が購入してくれるようになり、さらに他の隊員たちから土産としての需要も増えてきました。バッグだけでなくポーチやコースターなどの小物も好評で、作っては納品、作っては納品といった日々に。
私の目的は、経済・社会・栄養面で窮状に陥る可能性があるハイリスクな女性たちのサポート。そこで、生活困窮により痩せている女性や16歳の若年妊婦など、地域の各保健施設の受診者たちから見つけた女性たちに、初めは無給だけど、ケベサック作りの職業訓練をしないかと声をかけたのですが、「すぐにお金にならないことを苦労してまでやりたくない」という返事でした。
しかしグループのリーダー役の女性が、「あなたが想定していた相手ではないけれど、この地域には他にやる気のある女性がたくさんいるよ」と言ってくれて軌道修正。あちこちに声をかけて8人の訓練生が加わり、「小さなハートプロジェクト」(※)の助成金でミシンを修理したり、布を購入して職業訓練をサポートしました。
メンバーと、一生懸命続けた訓練生の一部の女性も、収入を得られるようになりました。私の活動を見てきたメンバーの家族から、「ケベサックを手伝ってくれてありがとう」と言われたり、配属先の上長から「ナフィ(賣野さん)は『魚を与えるより魚の釣り方を教えよ』ということわざを体現しているね」と評価してくれた時は、関わることができてよかったと思いました。
アフリカ小物を扱うショップ「jam tun(ジャムタン)」代表で、セネガルOVの田賀朋子さんが買いつけてくれることも大きな助けになっていて、今後も継続的な取引をお願いしています。04年の立ち上げ時は、働き盛りの40代だったメンバーたちも今や60代。人生経験を積み重ねた女性たちが伝統のアフリカ布で作るバッグや小物は、身につけているだけで明るく元気になれる、私にとって欠かせない宝物です。
※小さなハートプロジェクト…一般社団法人協力隊を育てる会が行っている隊員支援活動。隊員本来の業務以外で、派遣地域の人々の生活改善や向上に役立てるため、日本の民間グループや市民から支援金を募り、助成金を送っている。
Text=池田純子 写真提供=賣野由紀子さん