
特別学級で、障害のある生徒たちに体育を教えています。基礎体力をつけるため、マット運動などをさせたところ、「そんな動きはできない」「面白くない」などと前向きに取り組んでくれません。一人ひとりの障害の種類や程度も違うので、どう指導したらいいのか迷ってしまいます。生徒たちにやる気を出してもらう方法はあるでしょうか?
障害がある子・ない子に限らず、運動が得意な子と不得意な子がいます。苦手な子にとって、やろうと思ってもできないことをやらされることは苦しく、体にハンディキャップがあるとなおさらです。周りの子にできることが自分にはできないという状況も大きなストレスになりますし、できるまで同じことを何回も練習させられると嫌になってしまいます。
できないことには理由があるはずで、筋力が足りない、柔軟性が足りない、上肢と下肢を同時に動かすのが苦手など、障害や特性はそれぞれです。生徒をよく観察して、どういう動きならできそうかを考え、できる範囲から始めるとよいでしょう。それには運動を“ステップ化”することが効果的です。
日本での例になりますが、跳び箱であれば、低い跳び箱やタイヤ跳び、あるいは馬跳びなど、類似運動で飛び越す感覚を習得してもらうステップから始めることなどがあります。
ステップ化のアイデアの引き出しは多いほどよく、現在はインターネットなどで具体例が見つけられるでしょう。体系的な体育授業を経験してこなかった子が多いと思われる途上国では、日本以上に意識してステップ化を取り入れるとよいと思います。難し過ぎず、簡単過ぎないちょうど良いステップを設定できるかどうかが、指導者の腕の見せどころです。
この方法のメリットは、生徒に「小さな達成感」を積み重ねてもらうことができる点です。ステップ化された動作ができた時は、「今日はこれができたね」と声かけをしてあげることで、生徒は自己肯定感や達成感を感じられますし、「次のステップにも挑戦してみたい」と前向きに取り組んでくれるようになるでしょう。また、周りの生徒とではなく、自分との勝負ですから、皆、それぞれが平等にチャレンジすることができます。
ほかにアイデアとして、目標をクリアしたらスタンプを押していく、頑張った生徒に賞を出す、といった方法が効果的だったという例もあります。運動に楽しく親しむ経験は、その生徒が大人になってからも財産になることです。ぜひ小さな達成感を感じてもらいながら、活動を続けてください。
シリア/陸上競技/1993年度1次隊・山口県出身
広島大学大学院人間社会科学研究科教授。教員を目指していたが、人と違う経験を積みたいと大学卒業後、協力隊に参加。シリアで陸上競技の指導を行った。スポーツが人間の内面に与える影響などに関心を持ち、大学院へ進学。JICA客員研究員、日本学術振興会特別研究員などを歴任。専門はスポーツ教育学、スポーツ国際開発学。
Text=三澤一孔 写真提供=齊藤一彦さん