スポーツ感覚で環境意識を高める
日本発祥の“スポGOMI”をボリビアで実践

中島 博 さん

ボリビア/環境教育/2023年度3次隊・群馬県出身

▼取り組んだのは?▼

[スポGOMI]

一般社団法人 日本財団スポGOMI連盟が提唱する、「スポーツ」と「ごみ拾い」をかけ合わせた競技。ごみ拾いをスポーツ的に捉え、楽しみながら参加することを通じて廃棄物問題に関する意識を高める趣旨で、3~5人のチームで集めたごみをポイント化して得点を競う。単に拾った量を評価するだけでなく、ペットボトルやビン・缶などの種類別に得点が異なるため、参加者が自然に分別を行う仕組みになっている。

日本人だからこそできるコト!   日本を生かした活動あれこれ
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地域住民向けの説明を行う中島さんたち。相棒となった同僚が学校などもどんどん訪ねて協力依頼を進めてくれるので助かったという

   ボリビア第3の都市・コチャバンバ市で、環境教育隊員として市役所の廃棄物管理課で活動している中島 博さんが力を入れているのが「スポGOMI」だ。2024年3月に着任した当初はその存在すら知らなかったが、活動開始から3カ月ほどたった頃、上司であるボリビア人の課長から「こんな手法があるらしいよ」と教えられ、すぐに「やってみたい!」と感じたという。

「元々、自分だからできること、日本人だからできることをしたいという思いが強くありました。スポGOMIの存在を知り、 日本発祥であること、そして私自身が好きなスポーツの要素もあることに引かれ、なんとしてもやりたいと思ったのです」

   調べてみると、隣県の山間部のバジェグランデ市に事務所を置く日本のNPO法人DIFAR(※)がすでにボリビアでスポGOMIを実践していることが判明。JICAボリビア事務所を通じて代表の瀧本里子さん(ボリビア/野菜/2000年度2次隊)にコンタクトを取り、さっそく6月に2泊3日の研修に参加させてもらった。実際に競技の様子を見ると、開会式の後には運動会で定番の選手宣誓やラジオ体操といった日本らしい要素が取り入れられていて、しかも市内の学校の先生たちが率先して動いているなど地域に根づいた活動になっていることに感銘を受けた。

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スポGOMI当日、ごみを拾い集めるチームメンバーたち。高校2年生が競技に参加し、3年生が各チームに1人ついて審判役を務めた

   ボリビアの都市部は行政の清掃サービスがかなり行き届いているが、リサイクルできる物とできない物を分ける意識が市民に浸透しておらず、大量のごみで処分場の許容量が限界に達しつつある。スポGOMIを通じ、ごみの分別方法やリサイクルの重要性を学んでほしいというのが中島さんの狙いだった。

   研修から戻ると、中島さんはすぐに所属する廃棄物管理課の同僚7人に「スポGOMIとは何か?」というプレゼンを行った。反応はさまざまだったが、課長が、行動力のある同僚を選んで中島さんと共にプロジェクトリーダーに任命してくれた。9月14日が「コチャバンバの日」という祝日で、8月15日からの1カ月間が市内清掃の強化月間となっていたことから、その間の8月29日に大会を開催することが決まった。

   まずは開催場所を決めるための調査から始めた中島さんと同僚。路上ごみの有無や交通の安全面などを考慮し、市内西部にある湖のほとりでの開催を検討した。そこで近隣の高校2校の校長に学生の参加を打診し、快諾を得ることができた。

   次に、大会開催にあたっては、ステージや音響設備、救急車、交通警備員の配置など、市役所の関連部署の協力が必要となるため、開催場所の区長や関係部署を集めた会議を開き、協力を仰いだ。8月に入ると、高校の校長経由で町内会や保護者会に働きかけ、地域住民の理解も得た。

「関係者が多いので、事前の調整が重要でした。関係各所に話をする時は役所用、地域住民用など、相手に応じたスライド資料を用意して、毎回『スポGOMIとは何か?』という話から始めて説明を重ねるうちに、だいぶプレゼンが上達しました。開催予定日が清掃強化月間中だったので、公的に決まっていることだと強調し、開催が決まっている前提で話すようにしたほか、資料に“日本発祥”と入れたことで、現地の人の関心を引きやすくなったと思います」

   開催に向けた段取りがついたところで、協賛者の募集にも動いた。「ボリビアではイベント主催者が飲食物を用意するのが一般的なのですが、市の予算がなかったため、企業に支援を求めることになりました」。

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大盛況に終わった大会。2025年には世界大会に向けた予選を計画中だが、市内での政治的なデモに起因する延期を余儀なくされるなど、現地ならではの課題にも直面している

   そこで力を発揮したのが、一緒に取り組んでいた同僚だ。日本米の卸売業者や日本食レストラン、外資系スーパーといった企業に協賛を募ることを提案し、最終的に9社から米やパン、飲み物などの食品を提供してもらえることになった。

   開催に向けて苦労したのは、配属先の課から市役所の各部署や企業へ正式に協力依頼をしても一向に返答が来ず、期限が過ぎることが何度もあったことだった。

「期日が過ぎても関係各所からの回答がなく、何度も催促するのが大変でした。大会の前日ギリギリにやっと回答をもらえたケースもありました」

   しかし、最大の危機は開催1週間前のこと。開催予定地の湖に植林業者が入ることになり、湖一帯が突如封鎖されてしまったのだ。急遽、近隣にある屋根つき広場を中心とした街路で実施することに変更したが、「開催場所を変更したことで警備計画の再考が必要になり、別の町内会の管轄になったことで混乱も生じ、一時は開催が危ぶまれる事態になってしまいました。夜遅くに町内会長の自宅を訪問し、顔を合わせて説明を尽くすことでなんとか納得してもらうことができました」

   前日には、課の同僚たちに担当者リストを渡して各持ち場の責任者を明確にしておくと共に、当日の流れを最終確認した。そして迎えた8月29日、コチャバンバ市初のスポGOMI大会には高校生117人が参加して、開会式から閉会式まで大いに盛り上がりを見せた。競技には4人1組の合計16チームが出場し、所定の30分間で総重量135kgのごみを集めて戻ってきた。その中で、カウントされないごみを除く10.8kgを拾ったチームが優勝となり、1~3位が表彰された。

「ごみのカウントなどで待機となる合間には、他の隊員にソフトボール体験会を実施してもらったり、協賛のお米でおにぎりを作って提供したりしました。高校生も分別の方法や重要性を理解してくれ、課の皆からも素晴らしいとの感想がありました」

   今年は34カ国が出場予定の「スポGOMIワールドカップ2025」が日本で開催されるため、それに向けてボリビア国内でもDIFARが主催となり、協力隊員らの支援の下、予選大会が進められている。中島さんはこれを機にスポGOMIを定期開催し、ボリビア全土に広げていきたい考えだ。

「環境問題やごみの分別は座学で教えるとどうしても受け身になってしまいます。スポGOMIは体を動かして楽しみながら環境意識を高められるのが一番の魅力です。予算がなくても、最低限ごみ袋さえあればできるので、どこの国でも実践しやすいのではないかと思います」


※NPO法人DIFAR…ボリビアの農村地域で環境問題に取り組む団体で、廃棄物管理の提言、リサイクル推進、環境教育プログラムの普及活動などを行っている。バジェグランデ市を対象とした草の根技術協力事業を2012年から実施中。

Text=秋山真由美 写真提供=中島 博さん