今月のお悩み体育の授業で球技の試合をさせたところ
不正なプレーをして勝とうとする生徒がいます
(マラウイ/体育)

   小学校に配属されて体育の授業を担当しています。基礎体力向上のための体操だけだとすぐに飽きられてしまうため、楽しんでくれるのではと球技などの試合をさせると、審判役の子どもや先生の目を盗んで反則行為をするなど、“ズル”をして勝とうとする生徒が目につきます。そうした行為を減らすにはどう教えればよいでしょうか?

齊藤先生からのアドバイスいきなり試合をさせるのではなく、
技能面の練習を通じて意識の変化を促しましょう

   体育の授業で球技を取り扱う際に、いきなり試合(ゲーム)をさせてしまうと、子どもたちは試合に勝つことに全力を尽くすことになり、結果として、勝つためにはフェアでないプレーをしてしまう可能性も出てくると思います。試合を正しく行い、かつ楽しめるようになるためには、準備も必要になります。本格的にゲームを行う前に、スポーツを楽しむためのマインドや姿勢、技能を身につけてもらうことが重要です。

   そこで有効なのは、技能面のアプローチです。例えば球技ならば、まずはボールを操作するための練習。次に、ボールを持っていないときにどう動けばよいのかの学習も必要です。その上で、実際の試合に近づけた「タスクゲーム」を行い、最後に試合をするという流れが良いでしょう。タスクゲームとは、試合の中で個人・集団としてどのように動けばよいのかという戦術的能力の育成を目的として、課題を立てて行うゲームのことです。

   このようなステップを踏みながら授業を構成していくと、勝ち負けだけでなく、練習してきた技能・スキルをゲームの中でどう活かすのかという点に重きが置かれるようになり、フェアでないプレーをする場面は減るでしょう。

   体育で球技などのスポーツを扱う際、上記のような教育的価値を教員自身が授業の中でどれだけ引き出すことができるかは、腕の見せどころです。子どもたちが勝ち負けだけにこだわっているとすれば、授業の中で、スポーツの価値を十分に伝えられていない可能性があります。このように、試合を行う前にスポーツを正しく行うための心構えや各種スキルをいかに高められるかがフェアなプレーをする精神を育む上で重要なポイントです。

   ルールを守ることはスポーツを行う上で最も大切なことで、スポーツは世界各国で共通のルールがあるからこそ、世界中で楽しむことができる素晴らしい文化なのです。ぜひ、ルールを守る大切さとその意味について、たとえ地道でも子どもたちに伝えてください。体育が十分に成熟していない国々において、授業の中で正しくスポーツを教えられていない学校も多くあると思います。時間がかかるかもしれませんが、協力隊員のふるまいを生徒も同僚の先生たちも見ているはずですから、正しく楽しいスポーツができるよう、体育の授業を工夫してみてください。

今月の先生
齊藤一彦さん
齊藤一彦さん

シリア/陸上競技/1993年度1次隊・山口県出身

広島大学大学院人間社会科学研究科教授。教員を目指していたが、人と違う経験を積みたいと大学卒業後、協力隊に参加。シリアで陸上競技の指導を行った。スポーツが人間の内面に与える影響などに関心を持ち、大学院へ進学。JICA客員研究員、日本学術振興会特別研究員などを歴任。専門はスポーツ教育学、スポーツ国際開発学。


Text=三澤一孔 写真提供=齊藤一彦さん