今回のTICAD 9では会期中にYouth TICAD 2025が実施されるなど、
「ユース(若者)」が重要なキーワードとなっています。
ここでは若くして協力隊員としてアフリカに関わり、協力隊での活動を終えた後も
直接・間接にアフリカと関わってきたOVたちを紹介します。

協力隊後の進路

ベナンで起業→
日本へ帰国し、NGO職員に

綿貫大地 さん

ベナン/コミュニティ開発/2017年度2次隊・千葉県出身

綿貫大地さん
歴史に息づく隊員の奮闘   TICADと協力隊
Agri-Missionのオフィスで、スタッフたちとの一枚

   コミュニティ開発隊員として、ベナン南部のコヴェという町で農家を対象にした収入向上・生活改善に取り組みました。主な活動の1つが、SHEP(市場志向型農業振興)アプローチを用いた農家グループの収入向上プロジェクトです。栽培技術だけの支援と違い、農作物を販売するところまで含め、農業をビジネスとして捉えるような意識変革を促すことが狙いでした。最終的に、対象の農家グループは前年比120%も利益を向上させることに成功しました。

   当時出会った野菜農家たちは皆一様に農業に対するやる気があり、仕事に真摯に向き合っていましたが、経済的にとても苦労していました。彼らにもっと豊かになってもらいたいという想いから起業を決意し、SHEPのプロジェクトで農家グループのリーダーをしていた男性を共同創業者として2021年に立ち上げた会社がAgri-Missionでした。

   起業に先立つ調査で、消費者が多い都市部で販売するには輸送・コネクションの問題を抱える地方農家と、不衛生な市場を避けて安全で質の高い野菜を購入したい都市部の消費者との間で、マッチングに課題があることがわかりました。そこでウェブアプリやモバイルマネーによる注文システムを活用し、私たちが地方の農家からまとめて買い取った野菜を、都市部で直接配達して売るというビジネスを立ち上げました。利益の確保に苦労したほか、当初はベナン人職員に日本的な業務水準を求めるあまり、互いにギスギスしてしまう失敗も経験しました。

    現在は共同創業者にAgri-Missionの経営を任せ、私は日本に戻っています。彼は私が今まで出会ったベナン人の中で最も信頼している人物で、しっかりAgri-Missionを運営して日々改善を続けてくれています。彼には会社の一層の拡大だけでなく、将来的にはベナンという国の発展を引っ張っていける存在になってほしいと願っています。私自身はササカワ・アフリカ財団に所属し、アフリカへの農業支援に携わっています。当財団は35年以上アフリカで農業技術の普及を行なっており、より多くのアフリカ諸国で小規模農家の支援ができると考えて入職しました。今後に向けては、一人でも多くのアフリカの農家の所得を向上させることと、思い入れのあるベナンで小規模農家に良いインパクトを与えられる新規プロジェクトを立ち上げることを目指しています。

歴史に息づく隊員の奮闘   TICADと協力隊
野菜の直販事業のほか、直売所の運営などにも取り組んだ
歴史に息づく隊員の奮闘   TICADと協力隊
Agri-Missionでパートナーとして契約した農家の男性と。収入が増えたことで喜びの声も聞かれたという

協力隊後の進路

日系NPOの一員として
ザンビアで活動→日本国内の中学校に勤務

竹谷郷一 さん

ミクロネシア/体育/2012年度3次隊、
ザンビア/体育/2017年度1次隊・神奈川県出身

竹谷郷一さん
歴史に息づく隊員の奮闘   TICADと協力隊
隊員時代、水に入る習慣の少ないザンビア人学生たちに水泳を教える竹谷さん

   ミクロネシアでの協力隊経験を経て、2度目の協力隊派遣でアフリカのザンビアに赴任したのが2017年。配属先は国内中部に位置するムフリラの教員養成校で、教員を目指す生徒に向けて体育全般を教えました。活動を始めてみると、多くの途上国の例に漏れずザンビアでも体育の授業が座学中心になりがちという課題があり、実際に体を動かす体験をしてもらえるよう、できるだけ実践を取り入れるようにしました。

   新たに建設されたプールでの授業にも力を入れていたのですが、ザンビアは内陸国で、しかも川にはワニがいることもあり、多くの人にとって水に入る機会自体が非常に少ないという事情があります。そのため、当初は誰もが顔を引きつらせていたのを覚えています。ですが、何回か指導するとすぐに慣れて、多くの生徒はプールの幅一杯、20m程度は泳げるようになり、校内で私の顔を見るたびにもっとスイミングを教えてくれと声をかけてくれるようになりました。

   当時、私の任地近くのプロサッカーチームに横浜F・マリノスから中町公祐選手が移籍を検討中で、通訳のできる日本人として関わるようになりました。移籍が実現すると、中町選手がNPO法人Pass onを立ち上げて現地へのボランティアも始めたことから、それを手伝うなどしていました。Pass onはサッカー用品の寄付と、現地の周産期医療の改善という二軸を掲げていて、協力隊の任期が終了した後には私も正式に所属して4年ほど現地での活動に従事しました。

    一昨年の末に日本へ帰国した後は国内の中学校で教員として働くようになり、現在は不登校児童を受け入れて学校生活に慣れさせる専門のクラスを担当しています。今年から自治体で本格化した新しい試みということもあって担当教員の裁量がかなり利くため、アフリカなど各国の置物を置いたり、現地とウェブ会議システムでつないだりといろいろ試みています。昨年度は国旗かるたも紹介したところ印象的だったようで、美術など他の場でも、絵の具の配色などを見て「これは○○の国旗みたい!」と喜んだりする子がいました。中には193カ国すべてを覚えた子もいて、彼らの世界観を広げることに貢献できている手応えを感じています。

歴史に息づく隊員の奮闘   TICADと協力隊
プールに慣れてはしゃぐ生徒たちと竹谷さん
歴史に息づく隊員の奮闘   TICADと協力隊
任期終了後のPass onでの活動では、約束がなかなか履行されないことも多いアフリカ事情に改めて苦労したという

協力隊後の進路

アフリカを題材とし、
「タケダミホ」の名前でイラストレーターとして活動

武田美穂 さん

ケニア/環境教育/2009年度3次隊・東京都出身

武田美穂さん
歴史に息づく隊員の奮闘   TICADと協力隊
任地のワタムはケニア東部、インド洋に面する海辺のエリアで、豊かな海洋環境に多くの生き物が生息する

   私はケニア野生生物公社(KWS)が管理する国立公園・保護区の一つ、ワタム海洋国立保護区に配属され、近隣小学校での巡回授業や海岸の清掃などを通じた環境啓発活動を行いました。そうして活動を続ける中で増してきたのが、一緒に働くスタッフや近隣住民たちにもっと美しい海の生き物の様子や、海の現状を知ってもらいたい!という思いでした。そこで、しばらく使われずにご近所さんやスタッフたちの憩いの場と化していたインフォメーションセンターを復活させようと取り組みました。

   特に掲示物をもっと見やすく興味を引くものにしたいと考え、写真やイラストを増やそうとしました。とはいえ、すぐに野生のイルカなど海の動物の写真を撮ってくるのは難しく、自分の手でイラストを描くということにも取り組みました。これは好評で、大人から子どもまで楽しく興味を引かれた様子が見られるようになりました。スタッフたちも私がイラストを描く姿を興味深そうにのぞきにきて、それがきっかけで掲示物も見てくれたりと、皆に対して効果があったように思います。

   また、他のケニア隊員たちから活動に使うポスターやキャラクターの絵を描いてほしいと頼まれたこともあり、私の絵が皆の役に立ち、喜んでもらえる嬉しさを知りました。イラストを通してなら、子どもの頃から憧れてきたアフリカや野生動物の保全活動にもっと関われることがあるのではないかと思い、帰国後は思い切ってイラストレーターという道を選びました。

    私の一番の関心はやはり雄大なアフリカで暮らす野生動物たちなので、アフリカの動物を題材にしたイラストを多く描いてきました。その時に意識しているのは、自分が見てきたアフリカを描くこと。例えば、カバの色は日本の動物園で見ると茶色く、一般にもそう描かれがちですが、私が現地で見た時の印象は紫色!現地に特有な何らかの環境条件により、人間の目の見え方やカバの状態が違うのでしょうか…それをイラストにも反映しています。これからも自分の見たアフリカの姿をイラストにして伝えていくつもりです。

   野生動物たちの保全には、そこに暮らす人々が健やかであることも、とても重要だと考えています。外側からだけではなく、隊員として2年間ケニアで過ごした経験を基に、表情豊かな野生動物や人々の魅力をもっと日本の人たちに伝え、少しでも現地の状況に関心を持ってもらうきっかけを作っていきたいです。

歴史に息づく隊員の奮闘   TICADと協力隊
イラスト制作に取り組む武田さん
歴史に息づく隊員の奮闘   TICADと協力隊
自身のイラストによる大型パネルとの一枚。イラストを通じたアフリカ理解のための取り組みを続けている

Text=飯渕一樹(本誌) 写真提供=ご協力いただいた各位