
グローバルサウスの存在感が高まる中、
				協力隊OVには途上国での経験を
学生たちへ伝えてほしい
		東京大学 総長
1993年、東京大学大学院工学系研究科船舶海洋工学専攻博士課程修了、博士(工学)。理化学研究所勤務を経て99年に東京大学生産技術研究所助教授となり、2007年、同研究所教授に。同研究所所長を経て19年より東京大学理事・副学長を務め21年より現職。専門分野は応用マイクロ流体システムならびに海中工学。


1993年、東京大学大学院工学系研究科船舶海洋工学専攻博士課程修了、博士(工学)。理化学研究所勤務を経て99年に東京大学生産技術研究所助教授となり、2007年、同研究所教授に。同研究所所長を経て19年より東京大学理事・副学長を務め21年より現職。専門分野は応用マイクロ流体システムならびに海中工学。

学生がガーナの教育現場を直接体験することで開発途上国の現状や課題を理解し、より多角的にグローバルな視点を養う――そうした目的で「東京大学-JICAガーナ国際協力パイロットプログラム」が実施されたのは今年3月のことです。本学の学生8人が約2週間にわたり、現地の協力隊員の方々と活動したり、ガーナ大学の学生と交流するなどしました。隊員の配属先の一つではコンピュータもない環境でEメールについて教える活動をするなど、学生の皆さんは現地で非常に多くの学びと体験を得られたようです。
このプログラムの実施には、さまざまな背景があります。一つには、学生の間でグローバルサウス(※)への関心が非常に高まっていること。また、社会的課題に対して自分の力で何かしたいという学生も増えています。一方、大学としても、学生たちが、成長力を秘めたアフリカという地域で、現地の若い人たちと一緒になって多岐にわたる課題に取り組んだり、起業したりといった活動ができたらと以前から考えていました。そうした背景があり、アフリカへのリーチをより一層強めていこうということで、今回のプログラムの実現に至りました。
協力隊事業60周年という節目にこのプログラムが行われたことは、非常に意義深いことだと思っています。世界中、さまざまな場所で、協力隊の皆さんが60年も続けてこられた活動は、現地にも日本国内にも大きな足跡を残すものだったのではないでしょうか。そうした大きな蓄積をお持ちのJICAと共同でプログラムを行えるということで、非常に心強く感じていましたし、本学の学生が、協力隊の活動の場を経験できたのも大変意義のあることだったと考えています。
実際に参加した学生に話を聞くと「とても良い体験ができた」「もっと長くいたかった」と、満足度は非常に高かったようです。参加者の一人で教養学部2年の男子学生は、教育学部への進学を控えつつも教育の効果に懐疑的な考えを抱いていたそうですが、途上国の学校で教育が人を変える様子を間近に見て、教育の意義を根底から考えさせられたとのことでした。そして単に否定するのではなく、良い教育とは何かを考えることが重要であると視点が変わり、今後の学びの指針が定まった、という話を聞きました。今回参加した学生の皆さんには、現地で得たことを周りの友人にも共有してもらうと共に、次のステップとして自分に何ができるのかを考え、具体の取り組みにつなげてほしいです。
また、協力隊を経験されている皆さんには、現地での体験談を現役の学生たちに話していただきたいと思います。それによって学生たちが世界に興味を持つという循環がうまくできればよいと考えています。今回のプログラムでは定員8人に対して100人近い応募があり、多くの学生がアフリカを含むグローバルサウスに興味を持っていることが改めてわかりました。今後もJICAと連携しながら、そうした地域と本学との関わりを強める取り組みをどんどん進めていきたいと思います。
※グローバルサウス…新興国や開発途上国のことを指す総称で、これらの国々が南半球に多いことから名づけられた。
Text=池田純子 Photo=飯渕一樹(本誌)