東田全央さん

ソーシャルワーカー隊員をつなぐ団体を設立
学びと情報共有を拡大していきたい

東田全央さん

(スリランカ/ソーシャルワーカー/2012年度3次隊・兵庫県出身)

JICA Volunteers’ Reports
6月には、日本も元気にする青年海外協力隊OB会と合同で活動報告「国境を越えてソーシャルワーカーが集う機会を」を実施した

   今年4月、ソーシャルワーカーや関連職種のOV・現役隊員から成る任意団体「JOCVソーシャルワーカー・プラットフォーム」(以下、JVSWP)を設立し、参加を呼びかけています。

   これまでソーシャルワーク(社会福祉実践)関連職種にはOV団体が存在しておらず、JVSWPの設立に動きだしたのは2024年のこと。島根大学の准教授となって島根県へ移り、山陰地方出身のソーシャルワーカーOVや、これから同職種で派遣予定の隊員に出会ったことがきっかけです。比較的少ないソーシャルワーカー隊員とつながることができたので、これを機に以前から温めていた同職種のネットワーク構想の実現に向け、年末ごろから知っているOVに直接連絡を取ったり、他のOV会を介するなどして少しずつ声がけを始めました。現在、参加者は13人とまだ小規模ですが、オンライン会議を重ねつつ、活動の方向性を探っているところです。

   ネットワークの必要性を意識したのは、私自身の派遣前にさかのぼります。当時、“国際協力の世界でソーシャルワーカーとして何ができるのか”との自問からOVに経験談を聞きたかったのですが、機会を得られませんでした。人数が限られるこの職種の経験者をつなぐ窓口があればいいのにとの思いが長らく胸にありました。

   ネットワークを通じて隊員同士や、隊員と日本にいる人とをつなげられることに加え、海外の現場経験と日本の専門的な知見を共有する有益な学び合いの場になるだろうとも考えています。実際、日本でソーシャルワークを学んだ隊員だからといって、知見をそのまま途上国で生かせるわけではありません。私はむしろ、スリランカでの活動などを通じ、日本や欧米と異なる社会福祉の形から大いに学ぶものがありました。

   例えば、教育・養成システムが日本とは異なり、ソーシャルワークや社会福祉を専門的に学んだ人はスリランカの地方にはほとんどいませんでした。しかし、欧米ルーツの専門用語は知らなくとも、現場の知見を積み重ねてしっかり実践している人がいたりします。コミュニティの役割も大きく、障害のある人がいれば、周りの住民が関わって手助けすることもあります。障害当事者も自身にできることを通じてコミュニティに貢献していく。日本でいう“お互いさま”のような自然な助け合いの精神が、社会福祉として機能していたのです。

JICA Volunteers’ Reports
東田さんの隊員時代、地域の障害当事者・家族らによる会合の様子

   他国の現場を知ることで、ソーシャルワーカーの在り方さえ問い直すきっかけになるような、新たな視点が得られるかもしれない。隊員の経験には、そのように貴重な知見が秘められています。また、活動内容やその意義、面白さを伝えることで、日本の社会福祉分野の学生・実践者らに向け、自身の職能を生かして国際協力に関われるとのメッセージも伝えられるでしょう。それこそ、私が派遣前に欲しかった情報です。

   以上の観点も踏まえて掲げている設立趣意は、①国際・ソーシャルワークの視点から情報・意見交換をすること、②将来、ソーシャルワーカーなどの職種を目指す人と情報を共有すること、③他国のソーシャルワーカーとの交流を含め、今後の交流・活動を企画・実施すること、の3点です。当面は緩やかなつながりの形で活動し、そう遠くない時期に、より対外的にオープンな交流企画などができたら、と考えています。
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Text=三澤一孔 写真提供=東田全央さん