今月のお悩み農家の収入向上のため活動していますが、
道具の支援を求められて悩んでいます
(中南米/手工芸)

   先住民系の農家が収入を向上するための取り組みとして、伝統的な染料で染めた小物を作って都市部の人や観光客に販売するための支援を行っています。試験的な販売がうまくいったこともあり、参加したいという農家も増えつつあります。ただ、当初用意した道具だけでは足りなくなってきて、遠回しに追加導入を求められている感もあります。物品を提供することには抵抗がありますし、もし導入しても取り組みをうまく運営していけるか心配でもあります。

柿沼先生からのアドバイス意義が明らかならば物品の支援も有効なはず
“自分たちのもの”として導入する工夫も考えられます

   私は隊員時代、生活改善のために任地のシングルマザーを集めた洋裁教室を開き、皆で商品を作る活動をしました。簡単な衣類が縫えるようになると、それらを教会のバザーやJICA関係のイベントなどで販売し、実際に収入にもつながりました。

   当時、教室には現地業務費や配属先のNGOの予算で共用のミシンを導入していたのですが、やる気のあるメンバー数人から「家でも作業したいので自分用のミシンが欲しい」という声が上がりました。ただ、ミシンは高価ですから、追加で購入して提供しても後々使わなくなってはもったいない。あるいは雑に扱われて壊れても困ると思い、私も追加導入をためらいました。そこで思い至ったのが、メンバー自身にローンで購入してもらう方法です。それなら自分のものになるので丁寧に扱うはずですし、まとまった初期費用を払えない彼女たちでもできると考えました。配属先からの賛同も得てミシンを複数台購入し、それをメンバーに渡して費用をローンで返してもらうことにしました。

   いざローンを組むと、月々の返済はやはり不安定でした。学業を全うできなかった女性も多く、記録をつけて計画的に返済することが非常に苦手なようでした。しかも貧しい村の住人なので、家族の病気など不測の事態があれば、たちまち家計のやり繰りがつかなくなり、やむを得ず返済が遅れることも。そうした事情はわかっていたので、返済が滞っても怒ったり強く催促したりはしませんでした。それでも幸い、最終的に返済は完了しました。村で顔を合わせますし、ちゃんと覚えているんですよね。多少無理してもミシンを導入してよかったと思うのは、社会的・経済的に恵まれず自己肯定感が乏しかった彼女たちにとって、商品を作って収入を増やす過程が貴重な成功体験になったことです。以前より新しいことができるようになった、次は何をしようかな、と考えるのはかけがえのない経験だったでしょう。

   物を導入することで現地の人がどう成長できるのかイメージできるなら、自分たちで購入できる方法の提案も含め、導入を検討する価値はあると思います。ただ、投じたコストを予定通りに回収できるとは最初から考えないほうがいいですし、たとえ失敗してもダメージが大きくない範囲で実施する、複数の小さなプロジェクトを並走させるなど、リスクヘッジの意識も大切です。

今月の先生
柿沼瑞穂さん
柿沼瑞穂さん

ザンビア/村落開発普及員/1997年度2次隊・群馬県出身

大学院卒業後、協力隊でザンビアへ赴任。手芸品の販売による現金収入向上に取り組んだ。帰国後はJICA東京での勤務を経て、公益財団法人オイスカで四国研修センター所長として勤務しながら、「認定ファンドレイザー」の資格を取得。2018年より夫の故郷の山口県に移住し、フリーのファンドレイザーとして活動。青年海外協力隊山口県OB会のメンバーとして、子ども食堂や外国にルーツを持つ子どものための日本語教室にも携わる。


Text=池田純子 写真提供=柿沼瑞穂さん