 
            派遣前訓練中から活動中まで、多くの隊員が直面する“語学の壁”。
今回の特集では訓練所の語学講師からのコメントや先輩隊員のエピソードを通じて、語学力を磨き、現地の人々とコミュニケーションを取っていくためのコツや考え方を紹介したいと思います。
 
            派遣前訓練中から活動中まで、多くの隊員が直面する“語学の壁”。
今回の特集では訓練所の語学講師からのコメントや先輩隊員のエピソードを通じて、語学力を磨き、現地の人々とコミュニケーションを取っていくためのコツや考え方を紹介したいと思います。
 
		シリパーラ・ウィラコーン先生
語学訓練を終えて現地へ行くと、もちろん自力で学習を続けていかなければなりません。そのために意識すべき点として伝えたいのは、第一には約2カ月の訓練で覚えた基礎を、事あるごとにやり直し、覚え直し、磨き直すことです。私のクラスの訓練生にはインプットとアウトプットを地道に繰り返すよう教えていますが、派遣後の学習もその延長線上にあります。
第二に「わからない事柄をわからないままにせず、人に聞く」ということも大切です。現地では、訓練中に習っていない単語や言い回しがどんどん耳に入ってきて、最初の6カ月ほどは周囲の話がさっぱり理解できないことも多いと思います。あるスリランカ隊員の例で、日常生活の中で聞こえてくる知らない単語をいったんカタカナでメモしておいて、後で身近なスリランカ人に聞くというやり方を目にしたことがありますが、これはとても良い方法なので皆さんに薦めています。
第三に、派遣国へ行けば周囲の誰もが“先生”です。ホストファミリーや同僚のほか、特に子どもは話す内容が簡単なので、会話の練習がしやすいでしょう。私も最初に日本へ来た当時は日本語能力がゼロで、休日にはいつもホストファミリーと時間を共にして、お子さんとよくおしゃべりしていました。そういった人たちの存在を生かせるかどうかは自分の意識次第。人に教わり、人の助けを借りることが、現地へ行ってから語学を向上させるコツだと思います。
現地の言葉がたちまち上達する特効薬はありませんし、壁にぶつかること自体が当たり前です。そういうことが起きるのだとあらかじめ覚悟しておくのは、心が折れないために大切だと思います。そして、今あなたが語学に悩んでいるのであれば、それは現地の人とのコミュニケーションを投げ出さず、向上したいという意欲を持っている証しです。ただ、悩み過ぎてしまわないよう、一つでも成功体験を思い出してポジティブシンキングに努めることを忘れないでください。
 
		黒木靖子先生(ヨルダン/手工芸/1994年度3次隊・千葉県出身)
訓練を終えてからの語学は忘却との闘いです。私自身、アラビア語ネイティブではないので、インプットし続けなければ語学力は落ちるばかり。「教える立場にある以上、自分のアラビア語能力は下げられない!」と毎日、家へ帰ったらすぐにアラビア語の音源をつけて常に耳に入れているほどです。また、活動言語を身につけていく中で、間違ったまま覚えて定着させてしまう“化石化”にも要注意です。私の知人で、TOEICでハイスコアを取れる英語力がありながら、時々中学生レベルの英語問題集を解くようにしているという方がいます。すでにわかり切っていると思うような基礎を再確認するのは、意外に重要なことです。
赴任して新たな生活に慣れつつ、活動も模索していく…という中で勉強を継続するのは大変だと思いますが、モチベーションの維持には目標と学習計画を立てることが効果的です。私のクラスでも日々の学習計画を設定するよう伝えていますが、一説には「計画を立てて実行する」というプロセスだけで脳内にドーパミンが分泌されるといわれていて、勉強が楽しくなって“癖になる”のだといいます。
目標・学習計画を立てる時の留意点は、具体的な内容を決めること。例えば「次の会議では一言発言してみる」という目標や「1カ月で○○個の単語を覚える」という計画を立てると、自分がどこまでできているのか明確になるはずです。ちなみにアラビア語の派遣前訓練では約700語を学びますが、日常生活に困らないためには2,000語、流ちょうに意思疎通を図るには6,000語が必要といわれています。これまでに赴任していった隊員たちを見ても、計画を立てて学んでいるかどうかで半年後、1年後の理解力・単語力が全く違っていますから、面倒に感じてもトライしてみてください。
とはいえ、なかなか思うようにコミュニケーションが取れず、嫌になってしまう時もあるかと思います。人間は感情の動物ですから、心が動かないと体もついてきません。そんな時は、自室で好きな映画や音楽を鑑賞するなどして現地の言葉を一時的にシャットアウトして気分転換を図るのも一つの手でしょう。また、協力隊員の本分は草の根で現地の人々と共に暮らすことですが、気分がふさいでいる時には普段行かないようなホテルや観光地で過ごしてみるとリフレッシュになるだけでなく、改めて派遣国の良さに気づいてモチベーションを回復できるのではないかと思います。
語学やコミュニケーションの面で自分はダメだと思って落ち込んでしまったとしても、あなたの存在が無意味だということではありません。あなたがいるだけで幸せと思っている人がいるかもしれない。言葉が通じていなくても、あなたの優しさは現地の人に通じていますから、自分を信じて活動をやり切ってほしいと思います。
Text=飯渕一樹(本誌) Photo=阿部純一(本誌)、飯渕一樹(本誌)