先輩隊員の語学奮闘記2

現地への赴任後に習得したアムハラ語
完璧を求め過ぎず、周りと関わりながら語学を向上

比嘉善哉 さん

エチオピア/水泳/2016年度2次隊、カンボジア/水泳/2017年度8次隊・沖縄県出身

大学で水泳に打ち込み、卒業後は沖縄県で教員として2年間勤務。水泳を生かして国際貢献をしたいと協力隊に参加した。エチオピアとカンボジアで活動し、帰国後は英語力向上のためアイルランドでワーキングホリデーを経験。現在は沖縄で水泳インストラクターを務める。

比嘉善哉さん
学校を訪ね、水泳についての説明をする比嘉さん

   エチオピアの主要な現地語であるアムハラ語。派遣前訓練中に研修はなく、赴任後1カ月間の現地語学研修で、英語を介して教わることになる。

   水泳隊員としてエチオピアへの派遣が決まった比嘉善哉さんは、元々苦手だった英語を学ぶのに精いっぱいで、派遣前訓練の期間中にアムハラ語を自主的に学ぶ余裕はなかったと話す。知っているアムハラ語は「こんにちは」と「ありがとう」だけという状態でエチオピアへ飛び、現地でほぼゼロから学んだアムハラ語は、「テキストどおりの定型的な会話は辛うじて理解できても、わからないことのほうが断然多かった」という。そして配属先へ赴任してみると英語を話せる同僚はいたが、「お互いカタコトで話すようなレベル。アムハラ語を覚えなければ活動も生活さえもできない!と改めて習得を急ぎました」。

   比嘉さんが優先したのは、できるだけ多くの単語と数字を覚えること。アムハラ語は人称による動詞の活用変化があって難しいが、“伝えることに意義がある”と割り切った。文法的な正しさを追求するよりも、とりあえず単語をつなげて意思疎通をできるように、調べた言葉を単語帳にまとめるなどして語彙の拡充に注力した。数字は、水泳でタイムを選手に伝えるのに必須の要素。日常生活の買い物などさまざまな場面でも絶対に必要だった。

配属先で行われた水泳の競技大会。任期途中でカンボジアへと派遣国が変わったが、アムハラ語を身につけるためのノウハウは、クメール語で活動する上でも役立ったという

「最初の頃は自分の言いたいこと全部を正しい文法や発音で話したいと思い、伝わらないことでストレスをためていました。ですが、もう2年近くいる先輩隊員から『アムハラ語は難しいから仕方ない。伝わらないこともあれば、伝わることもある』と聞いて、ひとまず6~7割くらい伝わればいいじゃないかと心が軽くなりました」

   比嘉さんは当時を振り返って「語学について、他の隊員と比べて特別なことはしていない」と話すが、ネイティブスピーカーのいる空間に身を置く時間は長かったという。活動時はいつも同僚たちと一緒にいて、活動外の時間も大抵は自室を出て、街のカフェなどで過ごしていた。そして周囲の会話の中で頻繁に聞く単語をメモし、後から周囲の人や先輩隊員に意味を教わった。同僚も「外国人なのに自分たちと一緒にいたいんだな」とシンパシーを感じたのか距離感が縮まり、日本語にない破裂音の発音を教えてもらうなど、友好的な関係性もできていった。

   そうして接するうち、周囲の同僚たちの表情や話のトーンで重要な会話をしているのかどうか察せるようになっていった。そして、知っておかなければいけない内容だと感じた時には、勇気を持って話の流れを止めて「わからない」と伝えられるようになったという。

「同僚たちは嫌な顔もせず、わかりやすく丁寧に言い直してくれました。総じてエチオピア人は優しかったと思いますが、特に外国人がアムハラ語を話そうと頑張っていることを喜んで、温かく受け入れてくれました」

Text=工藤美和 写真提供=比嘉善哉さん