先輩隊員の語学奮闘記3

50代から学んだ新たな言語に苦戦
趣味とひも付けて、学習意欲を自ら促す

近藤 敦 さん

SV/メキシコ/品質管理・生産性向上/2022年度7次隊・岡山県出身

学生時代から協力隊に興味を持ちつつも、卒業後は物流系企業に就職。在職中は8年間、ベルギーに駐在したほか、2005年開催の愛知万博の業務にも携わった。気力・体力がある50代のうちに経験を生かして国際貢献をしたいと、退職して協力隊に応募。派遣前訓練を終えた後にコロナ禍で派遣延期となり、2年間の待機を経て22年にメキシコへ赴任した。帰国後は国際協力分野の仕事に就いている。

近藤 敦さん
語学・コミュニケーションの心得
現地語学訓練中からさっそくインラインスケートのグループに参加するなど、赴任してすぐに趣味などを通じて現地のスペイン語に触れていた

「若い頃から語学が好きで、仕事でベルギーに駐在していた時は主に英語を話し、フランス語、イタリア語も少し習ったりしていました。ですが、50代になって新しい言語を本格的に学ぶのは難しい。上達が遅いなと感じました」と語るのは、スペイン語が公用語のメキシコでシニア海外協力隊(SV)として活動した近藤 敦さんだ。

   訓練所の語学クラスでは最年長で、「若い同期の習得スピードについていくのがやっとでした」と苦笑する。難しく感じたことの一つは、スペイン語では主語が省略されがちなこと。人称や時制ごとに動詞の語尾が変わるので動詞さえ聞けば主語が何かわかるため、わざわざ言わないことが多いのである。しかし、動詞の活用形が身についていない初心者は、語尾を間違えて文意を誤って伝えてしまうことも少なくない。近藤さんは、もし語尾が違っても誤解が最小限となるよう、あえて主語をつけて言うという工夫をした。このスタイルは、その後メキシコへ赴任して以降も続けていたという。

   コロナ禍での2年間に及ぶ特別待機中は、JICAの提供するWeb講座を週2、3回ペースで受講。また、毎日「NHKワールド」のスペイン語ニュースを聞いてシャドーイングすることも欠かさなかった。若い頃の英語習得で「1日サボったら取り返すのに倍かかる」と身にしみて感じていたためだ。ようやく派遣された後は、メキシコ中部の都市ケレタロで1カ月の現地語学研修。講師の教え方はわかりやすく順調だった。

「ところが、街中に出たらさっぱり聞き取りができない。一般のメキシコ人が話すスピードに耳が追いつきませんでした」

語学・コミュニケーションの心得
配属先の同僚たちと近藤さん。英語が通じたことは幸いだったが、近藤さんは語学好きだったこともあり、それに甘えずスペイン語学習の努力を続けた

   それは配属先でも同じだった。近藤さんへの要請は、全国670カ所の国立科学技術高校を統括する教育省中等教育局の本部に所属し、各校舎を巡回しながら教育プログラムの見直しと提案を行うこと。「自分の側から話す時は自分のペースで伝えられるし、相手も理解しようとして聞いてくれるので一対一の会話は何とかできます。ただ、専門用語を多用する場面や大勢の会議になると内容についていけなくなるため、会議中も文字起こしアプリを使って、リアルタイムで文字を見ながら聞くという手段も取りました」。

   幸い、同僚は高い英語力を持つ人が多かったため、確実に把握しなければならないと感じた表現や会議の要点は、後から英語で同僚に確認することで不明点を解消できた。その他、近藤さんは配属先以外にも交流を広げて、より自然なスペイン語を身につけることを意識。SNSを介して趣味のインラインスケートやムエタイの現地コミュニティにコンタクトを取り、積極的に参加した。

「一緒にお酒を飲みに行って打ち解けると、どんどん話せるようになり、語彙や表現の幅も広がりました。語学は興味を持って続けることが大切なので、話す機会を無理やりにでもつくるのはいい方法だと思います」

   帰国後の現在もスペイン語でSNSを投稿していて、時にはスペイン語圏の知らない人から「旅行で日本に行くので、案内してもらえないか」などと直接メッセージが来ることもあると話す近藤さん。

「先日も都内を案内する機会がありました。びっくりしますが、楽しいですね」

先輩たちのオススメ学習法

今回お話を伺った3人のOVに、語学に役立ったと思う勉強方法や学習ツールを教えていただきました。

語学・コミュニケーションの心得

松井絵里香さん(タイ語)

現地語の歌を覚える

タイ人はカラオケで歌うことが大好きで、配属先でも子どものカラオケイベントなどが催されていました。私は語彙を増やそうと、皆がよく歌う曲をアプリで探して、歌詞を聴いて書き出すことを続けていたのですが、そのうち1曲は誰でも知っている少し古いロックバンドの曲。それを、同僚やその親族との年越し行事に招かれた際に生バンドの演奏で歌うと大ウケしました。自分の勉強になり、現地の人にも喜ばれて一石二鳥なので、歌のレパートリーを持つのはいいと思います。

語学・コミュニケーションの心得

比嘉善哉さん(アムハラ語)

先輩隊員から受け継がれた「アムハラ語-日本語辞書」

エチオピアに赴任してすぐにもらったのが、先輩隊員たちが作ったアムハラ語-日本語の小さな辞書。指さし会話帳のようにページを開いて見せれば会話も成り立つ便利なものでした。今の状況はわかりませんが、当時は隊員連絡所のパソコンで元データを引き継ぎ、歴代の隊員が徐々に単語を追加していました。赴任当初はどうしてもコミュニケーションに難があったので常に持ち歩き、途中からは言葉を覚えるために意識して頼らないようにして、自分で段階的に卒業していきました。

語学・コミュニケーションの心得

近藤 敦さん(スペイン語)

最新ニュースでスペイン語を学べる「NHKワールド」

NHKの国際放送「NHKワールド JAPAN」の公式アプリをスマホに入れて、今も使っています。無料のアプリで19言語対応、ニュースは記事をテキストで読み、同じ内容を音声でも聞けるので便利です。毎日お昼に更新されるので、昼休み中にまず読んで理解して、街中を歩く時などに聞いて、それでシャドーイングもします。シャドーイングは中学・高校の時に英語で行って飛躍的に伸びた体験から、ずっと取り入れている学習法です。

Text=工藤美和 写真提供=近藤 敦 さん