大賞・多文化共生賞

青木由香さん
青木由香さん

日系/ブラジル/日系日本語学校教師/2005年度0次隊・富山県出身

NPO法人アレッセ高岡 理事長 2010年4月に「高岡外国人のことばと学力を考える会」として発足。外国にルーツを持つ子どもたちの間で高校進学に辿り着けないケースが多いとの課題感から、高校進学のための学習支援を始めた。キャリアデザインや各種情報の支援などにも展開し、20年からは市民性教育事業を掲げ、国籍や言語・文化の違いにかかわらず全ての住民が共に地域の未来を築く社会を目指す。23年に2022年度国際交流基金の「地球市民賞」を受賞。

※「アレッセ高岡」は、団体名をポルトガル語表記した時の頭文字を取った愛称だったが、21年9月にNPO法人化した際に正式名称となった。

現役隊員へのメッセージ

活動中の悩みも葛藤も失敗も、全部未来の自分につながる種だと実感しています。それが芽を出して花開くのは、任期中なのか、帰国後なのか、年老いてからなのかは人それぞれだと思いますが、その種を大切にしてください

外国につながる子どもの支援に努めた15年
たどり着いたのは学習支援・情報支援・市民性教育の3本柱

「日本語がわからず、学校の授業中ただ黒板を見つめるばかりの子どもたち。やむにやまれぬ思いで活動を始めました」と語るのは、NPO法人アレッセ高岡の理事長を務める青木由香さんだ。

   協力隊員としてブラジルの日系人コミュニティで日本語や日本文化を教えていた青木さん。保護者の出稼ぎへの随伴で日本へ行った青少年が何らかの課題を抱えて帰ってくるケースがあったが、任地の人から「日本の学校教育はどうなっているのか」と問われてもうまく答えられなかった。その経験から、帰国後は外国人相談員として学校現場へ入り、ブラジルやパキスタンなどにルーツを持ち日本語理解に困難を抱える子どもの学習支援に携わった。

   しかし現場で取り組む中、週1回1~2時間とわずかな業務でできることの限界に直面した。また、子どもたちに必要なサポートは日本語学習に限らず多岐にわたり、すべてに一人で取り組むことはできないとも感じたという。そこで2010年、仲間と共に立ち上げたのがアレッセ高岡だった。

   4人の中学生から始まった受験科目の学習指導は口コミで広がり、これまでに約270人の子どもたちの高校進学を後押ししてきた。今や取り組みは学習支援にとどまらず、多言語による子育て・教育・キャリアデザインの情報提供、高校進学説明会・相談会の開催、県知事への提言など多方面に及んでいる。

   活動を展開する中では、地域の保守的な空気にも直面した。青木さんは「伝統を重んじる高岡という土地柄ゆえか、外国につながる子どもたちが抱える課題への理解や共感が得られにくい面は感じてきました」と振り返る。そうした環境下で、子どもたちは母語や母文化を押し殺し、日本語習得や日本の学校への適応を求められ続ける。

第3回社会還元表彰   受賞者たちが今に至る道
外国につながりのある高校生と日本人高校生の協働による短編映画の撮影風景。アレッセ高岡が制作や上映をサポートした

「支援は間違いなく必要です。ただ一方で、よかれと思ってやっている“支援”が子どもたちの個性を奪うことにならないか、日本社会への同調・同化圧力の一端を担ってしまっているのではないか、と葛藤するようになりました」

   新たなヒントを得たのは20年、「市民性教育」という概念との出会いだった。これは多様な人々が対等に地域の未来をつくるための意識や資質を育む教育のことで、青木さんはアレッセ高岡の活動の柱に「市民性教育事業」を加え、各種講座やワークショップ、イベントなどを積極的に開催。現在は「学習支援」「情報支援」「市民性教育」の3本柱で、外国にルーツを持つ子どもや若者が潜在能力を発揮し、支援される側でなく主体的に活躍できる場づくりにも力を注いでいる。

「彼らが誇りを持って輝ける場をつくり、そのための教育の在り方を問い続けること。それが地域の多文化共生、ひいては地方創生や社会全体の発展につながると確信しています」

Text=秋山真由美  Photo=阿部純一(本誌) 写真提供=青木由香さん