アントレプレナーシップ賞

星野達郎さん
星野達郎さん

グアテマラ/小学校教育/2013年度3次隊・神奈川県出身

株式会社NIJIN 代表取締役 「教育から世界を照らす」という企業理念の下、教員向けの研修サービス「授業てらす」や不登校児童のためのオルタナティブスクール「NIJINアカデミー」など13の事業を運営。学校の内と外から教育を変えることを目指す。NIJINアカデミーはメタバース上の本校舎と全国31のキャンパスのハイブリッドで小中一貫教育が受けられる独自モデルで、全国500人超の生徒が学んでいる。

現役隊員へのメッセージ

私は国際協力を強く志して協力隊に参加したわけではありません。ただ、自分がやりたいことを見つけたいと思い、がむしゃらに頑張りました。当時はそれに意味があるのかわかりませんでしたが、今は、人のために活動する協力隊の精神は、本当に〈いつか世界を変える力になる。〉と思っています。この言葉を胸に、一生懸命に頑張ってください!

教育現場の中で限界に直面
独立・起業で不登校児童に学びの選択肢をつくる

   新卒参加でグアテマラに赴任した星野さんは、帰国後に結婚し、妻の地元である青森県八戸市で小学校の教員になった。教員生活は充実していたが、学校で自分を出せずに暗い顔をしている生徒の存在がいつも気になっていたという。

「個性的な子や特技がある子、賢い子ほど、学校では問題児とか優等生というレッテルを貼られて周囲から浮いてしまい、個性や能力を発揮しにくい状況がありました。また、仮に自分のクラスの生徒を支援できても、他のクラスの生徒や、ましてや学校全体には届かない。教員という立場の限界を感じました」。

   グアテマラでは、先住民系住民が多く暮らすキチェ県の教育事務所に配属された星野さん。指導主事や市の教育長たちと共に算数授業研修会を企画し、教員同士が学び合う授業研究も県内12市に普及させた。

「県全体の教育の仕組みを変えるきっかけをつくれたと思っています。その経験から青森県でも教員の業務改善をする提案を県に対して行ったのですが、時間がかかり過ぎることを悟りました。ならば全国規模で教育の仕組みを変える活動をしようと思って起業したのが2022年のことです」

   最初に取り組んだのが、教員研修プラットフォーム「授業てらす」の立ち上げだ。トップクラスの教員の授業を見て学び、各地で勉強会を開催、立ち上げ2年後には500人の教員の参加を得た。しかし、「その間に不登校児童が全国で10万人も増えたのです。教員という学校の内側からの改革では防げない、従来の学校とは違う教育手段を選択できるシステムが必要だと思いました」。

第3回社会還元表彰   受賞者たちが今に至る道
NIJINアカデミーのオンライン授業で学習する子どもたち

   アカデミーの名前「NIJIN」を思いついたきっかけは青森県での教員時代にある。
「国の有形文化財でもある新むつ旅館で週末ボランティアをした時のことです。北前船で栄えた遊郭の最後の一軒であるこの旅館には、往時を知るおかみさんがいて、悲惨な境遇と思われがちな遊女たちにも笑顔があったことを教えてくれ、『人はどこにいても幸せになれる』と信じていました。私は、人は誰かのために大きな力を発揮する。自分が幸せになる力と、他人を幸せにする力の両面が必要だという意味を込めて、NIJIN(二人)としました」

   双方向のコミュニケーションができるメタバースの技術を使って自宅から出ることが難しい子どもたちにアプローチできるNIJINアカデミーは、在宅で公教育を受けられる仕組みとして高く評価されており、子どもたちそれぞれが在籍する学校からの出席認定は97%と高い。

   企業などとの協業をすることも多いため、教員がキャリアチェンジでき得る場としても注目されている。教員は毎月100人以上の応募があり、合格率はわずか3%。しかし、周知や人気を得るための特別な秘訣があるわけではないという。

「ウェブサイトを丁寧に作り込んで、毎日開催している体験会に参加してもらうこと、教員の採用と育成に力を入れることなど、やるべき施策を徹底的にやってきた結果です」

   現在、全国には約35万人の不登校の児童がいるとされる。

「NIJINアカデミーを広め、学校とは違う手段で公教育を自分らしく受けられる世の中にしていきたいと思っています」

Text=大宮冬洋  写真提供=星野達郎さん