審査員特別賞(共生社会)

安田一貴さん
安田一貴さん

ウズベキスタン/青少年活動/2011年度1次隊・福島県出身

笑顔の向こうに繋がる未来プロジェクト
PLAY&PHOTO Studio 共同代表
病気や障がいで写真館などへ出かけて写真撮影することが難しい子どもと家族に向け、希望の場所での出張撮影を行っている。安田さんと、保育士でもある安田さんの妻が共同代表となり、互いの得意分野を生かして活動。“心に残る撮影体験を届ける”ことをテーマとし、遊びなども交えながら、子どもの様子に合わせて時間をかけて気持ちをほぐして撮影することが持ち味となっている。

現役隊員へのメッセージ

“理学療法士だから理学療法士の仕事だけをすべき”といった固定観念を捨てると、本質的なニーズが見えたりします。それで心に引っかかったことを、誰から文句を言われようと地道に続けていけば、いつか花開くかもしれません。もちろん開かないかもしれませんし、僕自身、まだまだ未熟なのですが!

病気や障がいのある子どもたちに、心に残る撮影体験を!
笑顔を捉える出張撮影サービスへのチャレンジ

「笑顔の向こうに繋がる未来プロジェクト PLAY&PHOTO Studio」を立ち上げ、2017年から、病気や障がいのある子どもとその家族へ写真撮影体験を届ける活動をしている安田一貴さん。理学療法士として日本の病院で勤務した後、11年に青少年活動隊員としてウズベキスタンへ。血液学小児病院に入院して治療を受ける子どもたちとの遊びやレクリエーションを模索する一環で、彼らの姿をポケットに入っていたコンパクトデジカメで撮影した経験が活動の原点になっている。

「日本のように十分な医療体制ではなく、天国に旅立ってしまう子どもも多い病院でした。自分の撮った写真が子どもの家族にとっては非常に価値のある一枚になるという現実を目の当たりにして、写真というものの意義を強烈に感じた一方、中には撮影をしていない子が亡くなってしまったこともあり、なぜあの時撮ってあげなかったのかと悔やんだりもしました」

   帰国後は理学療法士として医療現場に戻り、改めて日本の子どもたちの現状に触れた。病気や障がいのために記念写真・家族写真を撮る機会が少ないことがわかった安田さんは、自宅を訪問して一緒に遊びながら写真を撮らせてもらう活動を始めた。遊びを通じて子どもと深く関わろうと、ホスピタル・プレイ・スペシャリストの資格も取得して地道に取り組みを続ける中、当初は不審がられたり、同業者から「理学療法士の仕事じゃない」と反感を買ったりといった壁にも直面したものの、口コミもあって次第に利用者は増加。

   そうした中、「来年を迎えられることが当たり前ではない子どもや家族にとって、折々の記念写真を撮ることには特別な意味がある。きちんとお金をもらい責任を持って取り組むべきだ」とプロになる覚悟を決めた安田さん。1年間、写真家に師事し、クラウドファンディングも活用して本格的な機材をそろえた。信頼を積み重ね、これまでに撮影した家族は、延べ1,187組(2024年末時点)に上る。

第3回社会還元表彰   受賞者たちが今に至る道
子どもの特性やその場の状況に応じた空気づくりを心がける安田さん。理学療法士としての知見や協力隊経験など、今までの積み重ねが一枚一枚の写真に生きている

   撮影では自宅や病院のほか、希望の場所に出張することもある。子どもの病気や障がいの特性、リスク管理に配慮し、必要に応じて美容師が同行し、ヘアセットやメイクを施す。安田さんが大切にしているのは、美しい写真を残すこと以上に、“楽しい体験”を届けること。「隊員時代に培った人間力や空気を読む力を生かし、その子らしさや家族らしさがあふれるような場の雰囲気をつくることが自分の強み。目の前の子を世界で一番うまく撮るのは自分だという気持ちで臨んでいます」。

   現在は、NPO法人laule’aが運営する放課後等デイサービス「遊びリパーク リノアたまプラ」の管理者を務めるほか、重度障害児を扱う映画にスペシャルニーズスーパーバイザーという立場で携わったりもしている安田さん。8月からはJICA海外協力隊起業支援プロジェクトBLUE(※)に参加し、事業の一層の洗練を目指す。「写真も遊びも理学療法も、病気や障がいのある子どもたちに楽しい時間を過ごしてもらうための手段の一つ。これまで出会った子どもたちの姿が目に浮かぶからこそ、これからも活動を続けていきます」と思いを語った。

※JICA海外協力隊起業支援プロジェクトBLUE…JICAによる、帰国隊員の社会還元支援のための事業。起業伴走プログラムなど各種の起業支援策を提供する。

Text=秋山真由美  写真提供=安田一貴さん