
ミクロネシア/体育/2016年度2次隊・大阪府出身
私が活動したミクロネシアのヤップ島は石貨(※)の文化が残るなど、伝統を色濃く残した地域でした。当時、既にビールやインスタント麺といった外来の物が島民たちにとって一般的なものになっていましたが、一方で、昼はタロイモ畑へ行き夜は漁に出る、自給自足に近い生活もまだ健在。先祖の時代からの身分差が現代の人間関係に直結しているなど、外国人が一見してもわからない伝統や習慣が影響を持っていたりもして、とても独特な社会なのです。
赴任当初に印象的だった文化の一つが、誰かの家を訪ねる時に、葉っぱのついた枝を手にして行くこと。現地の住宅は大抵、茂みの奥へ分け入った先に高床式の家屋が建っている構造なのですが、訪ねる時に持った枝を見せながら入っていくのです。初見の時は「一体なんだろう?」と思ったのですが、こうして敵意がないことを示す意味合いがあるのだとか。なじみの家の時にはほとんどしないので、日本でいえば、初めて訪ねる家に正装で菓子折りを持って伺うようなものでしょうか。
私も外国人とはいえ、現地のしきたりには気を遣って暮らしていました。というのも、ヤップ島では表立って誰かを叱責することは少ないものの、見ていないようで互いをしっかり見ていて、遠回しに注意されることも。それに気づかずに嫌がられたりすることがないよう、意識した立ち振る舞いが大切なのです。
逆に良いことをすれば、その話もすぐ広まりますし、はるか遠い南の島ながら、まるで日本の古い町のような奥ゆかしい社会ともいえるでしょう。良くも悪くもムラ社会的な伝統の世界にどっぷり浸かった2年間でした。
※石貨…ヤップ島で伝統的に用いられる、主に円形で中央に穴が開いた石板。貨幣として 日常的に使うものではなく、儀礼的な贈答品として冠婚葬祭など特別な時にやり取りされる。
Illustration=牧野良幸 Text=飯渕一樹(本誌)