
2年間という協力隊の任期は、活動が始まった時には長いと思えても、あっという間に過ぎていきます。そして気がつけば帰国が目前になり、活動の総括から身辺整理までやることが山積みになって終わらない!ということも。
そうならないよう、早いうちから任期の終盤には備えておきたいものです。今号の特集では、先輩隊員の帰国直前の体験談や、青年海外協力隊事務局からのメッセージを紹介。帰国時のイメージを膨らませて、慌てず騒がず安全にラストスパートに臨んでいただきたいと思います。

2年間という協力隊の任期は、活動が始まった時には長いと思えても、あっという間に過ぎていきます。そして気がつけば帰国が目前になり、活動の総括から身辺整理までやることが山積みになって終わらない!ということも。
そうならないよう、早いうちから任期の終盤には備えておきたいものです。今号の特集では、先輩隊員の帰国直前の体験談や、青年海外協力隊事務局からのメッセージを紹介。帰国時のイメージを膨らませて、慌てず騒がず安全にラストスパートに臨んでいただきたいと思います。

ドミニカ共和国/理科教育/2023年度1次隊・静岡県出身
理科教育隊員としてドミニカ共和国へ赴任した山田清楓さん。現職教員特別参加制度を利用して協力隊に参加したことから、その活動期間はおよそ1年8カ月。活動が流れに乗るまでに時間を要したこともあり、任期終盤になって急激に忙しくなる状況を経験したという。
山田さんの配属先はドミニカ共和国に6校ある教員養成校の一つだった。同国の小中学校には理科室や実験器具などの設備がないことが普通で、理科の授業では教科書を生徒に書き写させる教育が主だったことから、理科教育の提案と助言をすることが要請の中心だった。
「ドライアイスを水に入れると白煙が出る!といった目を引くようなアクティビティは普及していました。もちろん興味を持たせる導入としての効果は否定しませんが、中学生向けの教育では、楽しいだけではよくありません」
そこで山田さんは実験器具を使わなくてもできる理科実験を調べて準備し、学生向けのワークショップを開催するつもりだった。
「例えば、植物の気孔(葉などの裏にあり、呼吸や水蒸気の放出などをするための微小な穴)は顕微鏡がなくても、透明なコップに葉を入れてぬるま湯を注ぐと穴のところに泡がつくので観察できます。ドミニカ共和国では保健分野も理科に含まれているので、現地の誰もが大好きなポテトチップスをお湯の中で分離させて油の多さを見せ、脂質の取り過ぎを注意する実験も考えました」
しかし、理科の担当教員との調整に難があったことや、山田さん自身のスペイン語能力がまだ十分でなかったこともあり、中間報告会が開かれた1年後の時点ではワークショップを5回しかできておらず、授業で行われる理科実習の補助をしながらスペイン語の理科用語を地道に覚える日々だった。現職教員であることから派遣期間は残り8カ月しかない。そんな状況を中間報告会で率直に話したところ、配属先の副学長の耳に届き、協力を得られることになった。そしてトップダウンで一挙に、週1~2回ペースで授業時間を割いて山田さんによるワークショップを行う状況が整えられたのだ。
「ただ、ちょうど夏休みに突入してしまい、ワークショップが本格的にできるようになったのは2024年10月の新学期からです。任期終了まで残すところ6カ月でした」
終盤かつ本番に突入した山田さん。身の回りの材料でできる実験のワークショップを見せれば見せるだけ、学生たちに何かが残せるはず――。活動に関しては迷いがなかった。
「配属先の先生も学生たちも知識は十分に持っていて、何かのきっかけがあれば自分で考えて授業をできる人たちです。そのための種まきをしたいと思っていました」。山田さんが任期満了までに実施したワークショップは計33回。そのうち28回を最後の半年間で行ったことになる。
「本格的に“終盤”を意識し、積極的に動かなければとの思いを新たにしたのは、残り3カ月となる年明けの時期です。その頃には副学長の支援がなくなることになっていて、自ら働きかけなければ何もできなくなるとの危惧もありました」
しかし、この段階になると学内の知り合いはもちろん、小学校教員となった卒業生などさまざまな関係者から「1日の砂糖摂取量についてのワークショップをやってほしい」「日本語や日本文化を紹介してほしい」などと声がかかるようになった。山田さんは「求められたら何でもSí(スペイン語で“はい”の意)」と応じるようにしていたが、終盤の忙しさに拍車をかける事態が起こる。
ワークショップを行う時はいつも、参加者へのアンケートを取っていた山田さん。最終報告ではそのデータを基に何が良くて何が悪かったかを数字で示し、学生の教育実習に関しても自分なりに分析して、提案も盛り込んだ。するとその内容に感銘を受けた副学長の要望で、通常は配属先とJICA関係者向けの計2回だけ行う最終報告を、教員や学生向けに3回も余分に行うことになった。そうした日々の中で予定が毎日立て込み、離任ぎりぎりまで動き回ることになった。「サヤカに頼みたいことがあったけれど、忙しそうだから頼めなかった」と言う教員もいたという。
着任から1年間は本来やりたい活動ができずに苦しかったという山田さん。その苦労が大きく実を結んだだけに慌ただしく時が過ぎていった終盤を振り返り、「どの日のどの時間ならば空いているのか、私のスケジュールを可視化して関係者に共有するなどすれば、もっと効率的にワークショップのコマを組み込むことができたかもしれません」と話す。
Text=大宮冬洋 写真提供=山田清楓さん